セミナー「ICTで獲得する学習に困難のある子どもの学び」

主催:情報通信政策フォーラム(ICPF)
共催:ウェブアクセシビリティ推進協会(JWAC)
日時:5月25日金曜日14時から16時
場所:ワイム貸会議室四谷三丁目 会議室C
東京メトロ四谷三丁目駅前、スーパー丸正6階
講師:
近藤武夫(東京大学先端科学技術研究センター准教授)
大島友子(日本マイクロソフト株式会社プリンシパルアドバイザー)

近藤氏の資料はこちらにあります。 大島氏の資料はこちらにあります。

冒頭、近藤氏は概略次の通り説明した。

  • LD等読み書きに障害のある児童・生徒の読み書き訓練の教材として教師がICTを使うのではなく、児童・生徒自身が教室や試験に参加するなど社会的障壁を乗り越えるために、ICT活用能力を身に着ける必要がある。
  • 多様な障害のある児童・生徒が通常の教育過程で学び,高等教育へ進学し,キャリア就労を目指す(メインストリーミング)を通じて,将来の社会のリーダーを育成するDO-IT Japanプロジェクトを2007年に開始。また、アクセシブルな音声教材を提供するAccessReadingの事業を継続中。昨年度からはPHED(障害と高等教育に関するプラットフォーム形成事業)にも取り組んでいる。
  • 多様な児童・生徒に通常の子供と同じ方法で読み書き計算ができるように訓練する治療教育アプローチと、代替的な手段でたとえば「読む」ことができるようにする機能代替アプローチがあり、両者は相互に補完するが、この講演の中心は機能代替アプローチである。
  • 児童・生徒・学生は本人が学びたいこと、達成したい目標を自己決定し、そのために代替機能を活用する。代替機能には読むに対して「音声読み上げ」、書くに対して「キーボード入力」、計算するに対して「計算機を使う」、考えをまとめるに対して「概念マッピングを利用する」など多様なものがある。これらの代替機能にはICTが利用され、それらが動くためには、アクセシブルな教科書・教材を用意する、アクセシブルでない教材を電子化するといった環境整備が必要になる。こうして、代替機能を活用できるようになった児童・生徒・学生が,自己権利を主張し擁護できるようになることも必要。
  • ICT利用の目的は、教科書・読みを読み、宿題・予習・復習、ノートを取る,作文書く、調べ学習を行う、ドリル・小テストを受ける、入学・学力・資格試験を受けるという多様な教育活動への参加を平等に保障することである。
  • 全国の通常の教室で学ぶ小中学生の約6.5%68万人に発達障害の可能性があるといわれている。自閉症スペクトラム、多動・衝動・不注意(ADHD)、学習困難など多様な障害が存在する。立ち歩きや強いこだわりのある児童生徒では本人よりもまず教員や周囲が困ることで,教育的ニーズがあることが発見されやすい。これに対して、学習面に著しい困難を抱えた子どもでも,教室でおとなしく座っていた場合,本人が困っていることが発見されにくい。これらの子供を発見して適切な代替手段を提供する必要がある。
  • わが国では特別支援教育を受けている子供の比率は2.9%である。これに対して米国では13%。この大きな差は、法制度の違いも影響している。米国にはIndividuals with Disabilities Education ActIDEA)が存在し、障害のある子供を発見することが学校の義務となっている。わが国ではLDがあり、特別支援学級に通級する児童生徒数は12千人だが、米国では240万人。高等教育を受けている障害を持つ大学生のうち,大学で支援を受けている学生はわが国では11507人で、米国では200万人である。そこには多様な支援ニーズが存在するが, ICT活用は代表的なニーズのひとつである。
  • わが国では障害者差別解消法の施行以来、教育機関には障害のある子供に合理的配慮を提供することが求められるようになった。しかし、まだ、統計数値で見るように米国や英国に比べるとメインストリームの教育過程での支援の比率は少ない。幸い教育界の関心も高まっているので、ICTを活用した支援技術がいっそう利用されるように期待している。
  • (自分の子供にLDがうたがわれるとき、どうしたらよいのかという質問に対して)各学校に、呼び名は地域で異なる場合もあるが「特別支援教育コーディネータ」が配置されるようになっている。このコーディネータは担任を持たず、障害を持つ子供の支援専門に働いている場合も出てきている。担任を経由し,読み書き計算の支援ニーズがあることをコーディネータに相談するのが第一歩である。

続いて大島氏が実演を交えて次のように説明した。

  • マイクロソフトは学習に困難のある子どもの学びに役立つテクノロジーを、パソコンやタブレット、スマートフォン向けに提供している。それらの多くはWordPower Pointに、あるいはWindowsに基本機能として組み込まれ、スマートフォン向けのアプリも多い。
  • 読むことの困難に対応するためにWindowsには拡大鏡の機能があり、多様な形での読み上げ機能も提供されている。たとえば、Office LensというアプリにはOCR機能があり、読み取った画像からテキストを抽出して読み上げるようになっている。WordTalkerでは読み上げ箇所がハイライトされるようになっており、きめ細かい読み上げ設定ができる。
  • 書くことの困難さを補完するためにカメラを活用したり、デジタルノートのアプリが有効なケースもある。マウスやキーボードの困難も音声入力や視線入力で支援できる。実際に、視線入力などを活用することで大学生活を送る学生もおり、また、障害を持つマイクロソフト社員にもこれらの支援技術を活用して仕事をしている者もいる。
  • マイクロソフトは障害を持つ子供たちへのプログラミング教育も、NPO団体と協力して支援している。
  • (このような支援技術の開発にマイクロソフトはどう取り組んでいるのか、という質問に対して)本社の調整の元で各ソフト・アプリの開発担当者がアクセシビリティを考慮しながら開発している。一つのプログラムで各国語版に対応するように開発が行われている。
  • (マイクロソフトが支援技術を多く開発し、その中にはWordなどの基本機能となっているものがあると初めて聞いた。もっと周知が必要ではないか、という意見に対して)その通り。広報に努め今日もその機会を得たが、いっそう広報に努めたい。

その後、質疑応答で次のような議論があった。

  •  学校における通信環境の整備について。今までは通信環境の整備が遅れてきた。国はそのために地方交付税交付金を配ってきたが、必ずしも利用されていなかった。そこで最近、国は基準を見直し、通信環境を整備する方向に動いている。
  • 教科書や教材、図書をデジタル化することについて、障害を持つ子供の必要性に対応して図書館にデジタル版を準備するなどといった動きがある。また、著作権法における紙の教科書に関する特例をデジタル教科書にも適用できるようにする法律改正も進んでいる。
  • 障害を持つ子供も含めて、子供たちは多様である。居住地も都会から離島まで分かれている。どのような子供にも教育機会を平等に提供する必要があり、国も遠隔教育を許容する方向に動き出している。一方で、教育機会を平等にすることは均質の教育を受けるということではない。子供たちの個性や得手不得手に対応して教育プログラムを多様化することを同時に進めていく必要がある。
  • 現職教員、あるいは教員養成大学の学生の多くはICTを活用した支援で多様な子供たちが救われるということを知らない。学習における困難を支援するICT活用についていっそう周知していくとともに、たとえば教員養成大学で必修科目とするといった改善が求められる。