電波 電波改革はどこまで進んだのか:小林前大臣政務官に聞く 小林史明自由民主党衆議院議員

日時:12月18日火曜日17時30分から19時
場所:衆議院第二議員会館第8会議室(地下1階)
〒100-0014 東京都千代田区永田町2丁目1−2
講師:小林史明自由民主党衆議院議員(前総務大臣政務官)
司会:山田 肇(ICPF) 

小林議員は最初に政治信条を話したのち、五つのテーマで講演した。その後、それぞれについて質疑があった。

講演資料はこちらにあります。

政治信条
ドコモで社会人生活を始めたが、サービスを提供しようとした際にルールの壁にぶつかった。そこで、ルールを変える側になりたいと考え政治家に転身した。ドコモ社員の間に障害者が移動通信サービスを利用して社会参加しているのを目撃したこともあり、政治信条として「テクノロジーの社会実装でフェアな社会を作る」を掲げている。

公共安全LTEの導入
米国では911(同時多発テロ)を契機に公共安全に関係する行政機関の間で共通の通信基盤を持つべきという動きが始まった。それが公共安全LTEに発展し、間もなく導入されるという。わが国でも近年増加している災害に対応するには、消防・警察・海上保安庁などの通信システムを集約して公共安全LTEを構築するのがよい。2020年に消防が利用し始め、映像付きで現場と指令所の間の通信ができるようになる。

Q(質問):まずは消防ということだが、西日本豪雨などでは消防も警察も自衛隊も出動しているので、行政機関横断的に公共安全LTEを利用すべきではないか。
A(回答):各機関に通信要員がおり、彼らの仕事と生活を守る必要もあるので横断的な利用は容易ではない。しかし、消防が映像付きで交信するのを見れば、他の機関も公共安全LTEを導入しようということになるだろう。
Q:周波数帯は200MHzか。
A:200MHzではなく移動通信帯を考えているが、まだ確定していない。
Q:人口カバー率ではなく面積カバー率で構築を進めるべきではないか。
A:その通り。山の中で公共安全LTEがつながらないのでは話にならない。実は第五世代移動通信(5G)も同様で、面積カバー率重視で整備していけば過疎地域も大容量通信の社会的利益を享受できるようになる。
Q:公共安全LTEは自営網なのか。
A:その帯域は専用されるので輻輳などは生じない。通信事業者のLTEの一部に専用帯を設ける、民間が整備した網の一部を政府が運営する、政府が構築するが運営は民間に委ねる(公設民営)、政府が整備も運用も自前で行う、と様々な実現方法がある。全部自前でやると費用が最も掛かる。その点も考えて実現方法を検討してくことになっている。

公共周波数の民間転用
政務官になる以前、自由民主党内で行政改革を推進する立場にあったときから、公共周波数の民間転用の必要性を主張していた。規制改革推進会議で方針が出た後、総務省で検討して防衛省の帯域(1700Mhz帯)を民間に転用することになった。防衛省無線の転用にかかる費用は新規参入者(楽天)が負担した。これによって移動通信サービスに第四の事業者が誕生した。

Q:ほかに転用できる周波数はないのか。細分化された帯域を年に数回使っているというような使用実態のものは集約すれば他に転用できるだろう。区画整理が必要ではないか。
A:区画整理というのはよい表現あり、その方向で進めている。
Q:配分にオークション方式は使うのか。いつから使うのか。
A:オークションの考えを取り入れた総合評価方式について法改正を準備している。改正後は移動通信の周波数配分は5Gも含めて総合評価方式で行う。その際には、金額だけでなく、ネットワークセキュリティの確保や面積カバー率(過疎地のデジタルデバイド解消)なども評価基準になるので、総合評価と表現している。

移動通信端末価格とサービス料金の分離
NMP(ナンバーポータビリティ)の手続きが面倒だったり、中古端末が流通しなかったり、と今の移動通信サービスには競争が不足し利用料金が高止まりしている。自由民主党内にモバイル市場の公正競争に関する検討会を立ち上げ、検討した結果に基づいて菅官房長官が発言した。突然思いついたというような報道もあるが、事前検討があったのだ。

Q:移動通信事業は民間事業である。政府の介入は必要最小限にすべきではないか。
A:われわれのが問題にしているのは、料金が高止まりしており消費者に選択の余地がないことだ。端末価格込みで購入するしか選択肢がない状況は適切ではない。これを改善するために政策を検討しているわけだ。料金が高止まりしていると、利用できる人とできない人が生まれ、社会が分断される。これを防ごうと考えている。

放送改革
One to One Marketingという言葉があるが、情報にもOne to One Marketingの時代がきた。しかし、それが社会の分断を生んでいるという問題がある。放送にはあまねく広く届けるという社会的価値(社会の公器)があり、それを十分に発揮してもらいたい。
民放とNHKの対立ばかりメディアに載るが、社会の公器としての価値をどう高め、NETFLIXなどに対抗していくか放送業界全体で考える必要がある。
NHKにはネット同時配信を認める代わりに、事業改革を求めている。民放には県域放送を見直す代わりに、公器としての価値を高めるようにBPO改革などを求めている。その過程でBSに新規参入を認めることになったのである。NHKも民放も変われば、NHKの国際放送に民放のローカルコンテンツを載せるなどもできるようになる。

Q:NHKは4波も持っている。一部を放棄させるべきではないか。
A:BSは返納させ、新規参入を求めるつもりである。ジャニーズチャンネルやエグザイルチャンネルができてもよい。コンテンツ所有者が積極的に配信に乗り出すことを期待している。
Q:県域放送を見直すということだが、ローカルコンテンツは重要である。
A:その通り。問題はローカル民放の経営状況がわかっていないこと。株式を公開していない民放でも経営基礎情報は公開するように求めている。その上で、隣接地域の民放と協力・統合するかは民放が自らの意思で決めればよい。
Q:ケーブルテレビをどう見ているか。
A:ケーブルテレビであれば4K・8Kも送信できる。これからはケーブルテレビが地方でますます重要になっていくだろう。ローカル民放も隣接区域と連合してケーブルテレビにローカルコンテンツを提供するようになるかもしれない。

社会システムの標準化
米国は民間企業がデータを押さえ、中国は政府が押さえている。その中間に位置付けられる、一人ひとりの人が自分の情報を押さえ、それを公民が利用する「ヒトを起点としたデータ経済圏」を生み出す必要がある。
地方分権と中央集権の二項対立の中で、地方公共団体の情報システムはひどい状況にある。出力形式を勝手に決めていることもあって、情報システムは統一されず、費用だけがかさんでいる。これは「ヒトを起点としたデータ経済圏」は実現できない。社会システムの標準化が求められる。

Q:「地方自治の本旨」という言葉で反対する人たちがいるが、説得できるのか。
A:全国市長会に検討してもらったが、市長は情報システムの統一やデータ形式の標準化に賛成であった。受けれ得てもらえる可能性があるので、法制定に向けて活動していきたい。
Q:個人情報保護法2000個問題にも対応するのか。東日本大震災の際に避難所に逃げた人々の医療情報を国立病院・公立病院・民間病院間で転送・共有できないという問題が起きた。
A:データ経済圏は専門家には理解してもらえるが、一般市民には災害時の対応について話すほうが理解が進む。2000個問題も俎上に載せていきたい。