オンラインセミナー「デジタルでアップデート:高齢者の自立生活」 山田 肇IEC SyC AAL国際幹事

開催日時:2024年5月29日水曜日 午後7時から1時間程度
開催方法:ZOOMセミナー
講演者:山田 肇・IEC System Committee Active Assisted Living国際幹事

山田氏の講演資料はこちらにあります
山田氏の講演ビデオ(一部)はこちらにあります。

冒頭、山田氏は次のように講演した。

  • 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」(2023年)によれば、15~64歳人口は、2020年の7,509万人が2070年には4,535万人まで減少する。しかし、65歳以上人口は3,603万人から3,367万人と横ばいである。
  • 厚生労働省は「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」(2021年)において、介護職員の必要数は2023年度には約233万人で、2040年度には約280万人と推計した。しかし、生産年齢人口が減少する中では、必要数の達成は不可能であり、「デジタルでアップデート」等の抜本的対応を進める意図を表明した文書と解釈するのが適切である。
  • 国際連合「2022 Revision of World Population Prospects」によれば、世界の人口に占める65歳以上の割合は、2022年の10%から2050年には16%に増加する。その時点で、世界中の65歳以上の人口は、5歳未満の子供の数の2倍以上、12歳未満の数とほぼ同じとされており、高齢者の生活支援は各国共通の課題である。
  • 高齢者を支援する新技術の動向を調査した論文「Mapping emerging technologies in aged care: results from an in-depth online research(2023)」が公表されている。同論文は222の新技術を特定した。日常生活支援の新技術をすべての高齢者を対象に提供しようというのが、主流である。
  • 高齢者は新技術を受け入れるだろうか。論文「Users’ Perceptions and Attitudes Towards Smart Home Technologies (2018)」に基づいて紹介する。日常生活と健康管理データのモニタリングを受け入れるか等について、全年齢層では否定的な結果が出たが、Estimated Marginal Means(推定周辺平均)で年齢別の受容度を評価すると高齢者ほど積極的に新技術を受け入れるという結果になった。
  • それでは、無条件に受け入れるのだろうか。論文「Barriers and facilitators to health technology adoption by older adults with chronic diseases: an integrative systematic review (2024)」がその疑問に答える。80以上の論文を系統的に分析したレビュー論文は、受入の促進要因として病気への関心と理解、発病期からの新技術の利用、常時モニターによる適切な介入、自己管理による病気の改善等を列挙している。阻害要因は病気への過度な不安、複雑な健康状態等である。要するに新技術の価値に関する高齢者への丁寧な説明・指導が鍵と読み取れる。
  • いくつか、実践例を紹介する。アドダイスは「健康見守りAI<ResQ AI>」を提供している。スマートウオッチでバイタルを常時測定してAIで解析、解析結果は本人の他、家族や医療・介護・保健施設などにも提供可能である。企業健康経営で、従業員のメンタルケア、従業員の熱中症対策等に利用できると共に、高齢者の見守りに適用できる。山梨県中央市での実証実験は、山梨放送で報道された。
  • パナソニックにはLIFELENSがある。高感度センサなどのセンシング技術で、介護施設入居者の居室での状態や生活リズムをリアルタイムで把握する。それによって、「まず訪室」を強いられていた介護スタッフが、LIFELENSで「見て訪室」できるようになり、負担は軽減され、入居者のQOLも向上する。導入したHITOWAケアサービスによると、80%の夜間業務削減。見回り業務が効率化され、ケアを必要としている方により時間を使えるようになったそうだ。
  • 日本市場への参入を目指す外国企業もある。台湾のDAXIN Biotechnologyは寝たきりの人用の特殊な排泄洗浄システムを、2023年秋の台湾フェア(新宿)で展示した。
  • イスラエル企業EyeClickは、四人で競争する高齢者向けゲームObieを、2024年春に日本で介護関係者に紹介した。ニュージーランドの施設では、週に3から4回遊ぶと、入居者の社会性、認知、身体動作に改善がみられるとの結果が出ている。AgeTechについて海外と日本の仲介を事業とする、日本所在のLiving Bestが紹介した事例である。
  • 日本から世界へに向かう企業もある。ユカイ工学は、センサなどがネットワーク接続され、人間を深く理解し、行動をサポートするコミュニケーションロボットを提供している。5月にフランス・パリで開催のVIVA TECHNOLOGY 2024は、日本をCountry of the Yearに指定したが、JETROに選定され、ユカイ工学は日本ブースに出展した。
  • ここまでをまとめる。人口減少下での高齢者の生活支援は、介護を含め、デジタルでアップデートする必要に迫られている。事情は世界各国に共通し、生活モニタ、緊急事態の検知と通報等、多様な分野で新技術が誕生してきた。新技術の価値に関する丁寧な説明・指導で高齢者は新技術を受け入れる可能性が高く、また、生活モニタを受け入れる割合は年齢と共に増加する傾向がある。国内でIoTセンシングやAIを活用した事業が始まるとともに、日本市場に関心を抱いた海外企業の参入も始まりつつある。
  • 高齢者への新技術による生活支援最大の課題は、加齢に伴う身体・認知・判断能力の低下である。能力低下は自立生活支援システムの在り方に影響する。今日の状態に最適化したシステムは、数年先には役立たない恐れがある。部品を抜き差しするだけで変化に合わせられる仕組みが求められ、相互接続・相互運用性を確保する標準化が必要になる。能力が変化しても安全が確保できる配慮が求められ、高齢者の安全を確保するガイドラインが必要になる。また、「人間中心のAI原則」を補完する追加的な原則、すなわち高齢者の利用を想定した追加的ガイドラインも必要である。
  • これらを担当する国際標準化活動が2015年にスタートした。それが、IEC System Committee Active Assisted Living(IEC SyC AAL)。2015年設立で、Chairpersonは Dejun Ma(中国)、SecretaryはDr. Hajime Yamada(日本)である。カナダ、中国、インド、イタリア、日本、韓国、ドイツ、オランダ、ロシア、英国、米国が積極的に参加している。
  • IEC SyC AALはユースケースを数多く集めた。Personal health checkは、高齢者の生体情報を収集するウェアラブルな生体センサからの情報も元に、医師が健康レポートを作成し、その高齢者自宅近隣の薬剤師がアドバイスするというものである。Behavior monitoringは軽度の認知障害がある高齢者が、行動モニターシステムを使用して一人で生活するというもの。システムは危険な出来事や行動パターンの変化を認識し、出来事の種類に応じて当人に通知し、あるいは、救急車等の助けを求めるようになっている。Smart wheeled walkerは好みのルートに沿って選択した目的地に行き、戻るのを手助けし、高齢者を案内するシステムである。
  • これら40以上のユースケースがすべて実現できるようにアーキテクチャを検討した。IEC SyC AALはReference architecture and architecture modelを出版済みである。参照アーキテクチャを利用して、要素間の相互接続・相互運用、安全やセキュリティの分担原則など、標準化すべき項目を明確化されていった。
  • AAL devicesとAAL gatewayの相互接続・相互運用のために技術標準を作成すれば、AAL devicesの抜き差しが可能になり、加齢に伴うシステム変更の柔軟性という要請に応えられる。多数の企業から供給される、多様な情報をセンシングするIoTセンサが同時に存在するときには、取得した大量のデータを交通整理して、情報処理システムに引き渡す仕組みが必要で、センシングIoTの国際標準が誕生した。
  • AALに利用するAIの追加的倫理ガイドラインや、遠隔モニタリングシステムの経済性分析結果も公表されている。参加患者が毎年25,000人増加し最終的に100,000人に達するシナリオで、投資リターンは172%に達する。
  • ここまでをまとめる。身体・認知・判断能力の変化に対応して、高齢者の自立生活を支援するシステムが提供できるためには、相互接続・相互運用等の標準化が不可欠である。2015年にIEC SyC AALが誕生して、国際標準化が進められている。その成果として、多数のIoTセンサからの大量のデータを交通整理して、情報処理システムに引き渡すセンシングIoTの国際標準などの技術的標準とともに、AALに利用するAIの追加的倫理ガイドライン等が出版され、実用に供されつつある。
  • AALに関係する標準化項目は多岐にわたる。データセキュリティ、スマートホーム、人間工学、支援技術、ウェアラブル、安全、AI、ICT、リスク管理。IEC SyC AALが全部自分でやるのは不可能である。一方で、IEC SyC AALが「似て非なる標準」を大量に生み出せば、標準利用者の利便は損なわれる。そこで、他の標準化グループとの連携を進めている。
  • 特に、IEC SyC AALはISO/TC 314 Ageing Societiesと連携している。TC 314は、各国の高齢社会政策に共通する要素をガイドライン化する活動を進めるグループで、高齢者就労、認知症共生社会、家族介護の支援等のガイドラインが出版されている。また、IEC SyC AALと共同で、利用者(高齢者)による新技術の使いやすさに関するガイドラインの作成に乗り出したところである。
  • TC 314では、在宅および介護施設での高齢者ケアについて標準化を進めているが、その中でもAIを始めとした新技術の利用が謳われている。AIは、効率的で個別化されたモニタリングとケアを提供することで、高齢者のヘルスケアに革命を起こすことができるとされてる。
  • 講演をまとめる。国内でIoTセンシングやAIを活用した事業が始まるとともに、日本市場に関心を抱いた海外企業の参入も始まりつつある。身体・認知・判断能力の変化に対応して、高齢者の自立生活を支援するシステムが提供できるためには、相互接続・相互運用等の標準化が不可欠で、2015年以来、IEC SyC AALで国際標準化が進められている。IEC SyC AALは他の標準化活動と連携し、ISO/TC 314での在宅および介護施設での高齢者ケアでもAIの活用が特記されている。
  • 高齢者の自立生活支援はデジタルでアップデートされる。わが国での先行利用は、介護サービス自体も含め、世界市場進出の契機となる。

講演後、次のような質疑があった。

介護施設への新技術の導入について
Q(質問):介護施設職員が新技術を理解して利用し始めるには大きな壁がある。忙しいという理由で介護職員は新技術を受け入れないのではないか。
A(回答):単に「新技術です、素晴らしいでしょう」と言っても導入されない。施設を定期的に訪問して導入指導をする対応が必要になる。実際、千葉の企業が指導した結果、入居者の状態を職員間で共有するSNSスレッドが充実したという事例もある。数か所の小規模施設が連携して指導を受けるなど、地域としての取り組みも求められる。厚生労働省もその方向に動いている。
Q:ITに詳しいサポータを育成するといった対応も必要ではないか。
A:IT企業の退職者などにサポータとして介護施設の指導をゆだねるというアイデアは、確かに可能性がある。ボランティアとして関わることでその人の老化が抑えられるという効果もある。ビジネスとして支援を実施できることが第一で、ボランティア利用が第二の対策だろう。

在宅介護について
Q:在宅介護をしている家族が社会から孤立しているのは適切ではない。そのような家族がSNS上で経験を交流するような仕組みが必要ではないか。
A:在宅介護といってもヘルパー等のプロが訪問してサービスをするのが普通である。そのような場合には、ヘルパー派遣会社に対して介護品質を問うのがよい。ISO TC 314での国際標準化でも、施設介護だけでなく在宅介護の品質を対象としている。そのうえで、おっしゃるような仕組みを作り家族の孤立を防ぐ、そんな社会システムを構築するのがよい。また、独居老人の見守りについてロボットを利用して遠方の家族とつなげるといったサービスも始まっている。家族だけでなく、在宅の高齢者も孤立させない仕組みである。
Q:AIを利用すると新たな可能性が生まれることは分かった。しかし、AIに支援された認知症の高齢者を健常者と見間違うというようなトラブルも予見されるのではないか?
A:標準化の場では、高齢者を支援する際の注意点についてのガイドラインは作ってきたが、AIで支援された高齢者を健常者と見間違うといった課題については扱っていないかった。標準化の課題として受け止める。