開催日時:2025年5月21日水曜日 午後7時から1時間程度
開催方法:ZOOMセミナー
参加定員:100名
講演者:
山田 肇・ICPF理事長:デジタルヘルスの市場動向
田中宏和・広島市立大学教授:国際標準IEC 63430の内容と価値
山田 肇氏の講演資料はこちらにあります。
田中宏和氏の講演資料はこちらにあります。
冒頭、山田氏は次のように講演した。
- Apple watchによる心電図測定について精度が確認されたという2019年の成功事例から、センシングIoTの市場が動き出した。
- 日々の健康を守るフィットネスアプリがスマートフォン用に提供されている。フィットネスアプリ等で取得した情報を蓄積して解析して、対象者の課題を明確化するデジタルバイオマーカーは新薬開発などで利用されている。デジタル技術を活用した医薬品「デジタル薬」も、行動変容を促すアプリとして医薬品として承認されている。
- デジタル技術を活用するヘルステックは健康医療介護サービスの効果を高め、効率を上げ、革新をもたらす技術である。2025年1月の米国CESでは二大注目技術として扱われた。
- 介護施設向けに介護業務を支援するシステムも実用化され、厚生労働省は介護報酬の2024年改定で、支援システムを導入した介護施設のスタッフ配置人員数を現行の2人以上から6人以上に緩和した。
- デジタルヘルス世界市場規模は、2024年の288USb$(41兆円)が 、2030年まで年率22%で成長するとされている。日本のデジタルヘルス市場は、2024年の7兆円が、2033年までに12.9兆円になるとの予測がある。「介護テック」「エイジテック」等と呼び方は異なるが複数の市場調査会社が同様の予測を発表している。
- 高齢者向けの生体情報センシングは、加齢に伴う状態変化によって、IoTセンサを着脱する必要性がある。フィットネスアプリ、デジタルバイオマーカー等でも、事情は同様である。IoTセンサ個々に、サービスを提供する企業個々に、センサの着脱について設計する非効率は、デジタルヘルス産業発展の隘路になる。
- 課題解決のために、センシングIoTの国際標準IEC 63430が開発された。この国際標準によって、特定のスマートウォッチと特定のスマートフォンの組み合わせがもたらす市場独占を開放する可能性がある。経済産業省は、日本企業がRule TakerからRule Maker に変革するのを支援する「日本型標準加速化モデル」を推進中している。日本主導で国際標準化したIEC 63430の市場での成功に大きな期待が寄せられている。
次いで田中氏が講演した。
- 2017年時点で日本は世界でナンバーワンの「センサ」王国で、マーケットシェアの50%以上を握っていた。現在でもセンサの世界出荷台数は伸び続け、さらなる成長が予想されている。その中でも医療・ヘルスケア用の伸び率は大きい。
- 住環境周りでは、センサによる個々の機器の自動化から、機器同士をつないで連携に進み、環境側の条件、人の活動状況、機器の動作状況を連続的に取得・処理して、最適なサービスを提供できるようになりつつある。
- そこで、多様な利用例(ユースケース)をベースに標準化課題を洗い出すという手法で、国際標準化が進められている。たとえば、ウェアラブルセンサを介し生体データ(心拍・呼吸数など)をスマホやBANハブなどで集約する短距離無線通信規格が作られた。これがSmart BAN (Body Area Network)である。
- ユースケースを基に考える手法で生まれるのは、社会課題からのニーズ定義に基づく規格であり、特定の社会課題を解決するための必須要件であり、社会に新しい市場を創生する可能性を持つ。
- ユースケースをベースにする手法から、異なるメーカーや機器間でも共通的に処理できるようセンサデータをコンテナ化し,フォーマットを統一することで,アプリケーション開発のコスト削減と期間短縮を実現するという国際標準が生まれた。大量で多様なセンサデータを利用するサービスに必須の技術、IEC 63430に基づくIoTデータコンテナ技術である。
- IoTデータコンテナ技術は今後製造や流通、金融、建設、運輸、サービス、エネルギー、公共などのさまざまな分野・領域で適用されるだろう。そのための普及啓発活動をセンシングIoTデータコンソーシアム が中心となって進めている。コンソーシアムはユースケース開発、実装に向けた技術紹介とサポートを行う。
- しかし、このような技術の利用者には、自らのデータのセキュリティ、プライバシーに関する不安、自らのデータを把握・制御できない不安がある。
- そこで、利用者が自らの生体センサ等で取得したパーソナルデータを、スマホやタブレットなどのエッジコンピューティングデバイスにセキュアに保存・管理するための国際標準の作成を進めている。セキュアにセンサデータを蓄積・管理する仕組みの定義、サービス定義書/制御つきデータコンテナの定義、ユーザデータ提供に関する本人同意プロセスの定義などである。
二つの講演後、次のような質疑があった。
プライバシーとセキュリティの標準化について
質問(Q):プライバシーとセキュリティの標準化は他の組織とリエゾン(連携)して進めているのか。
回答田中(AT):ISO/IEC JTC 1/SC 27の活動などによって多くの国際標準が存在する。それらを集めてきて、どのように利用すればよいかを考える。それをセンシングIoTサービスに適用するための、特有の技術条件を洗い出す。
コメント(C):そうだとすると、SC 27/WG 5などと勉強会(Special Project)を開くところから始めることをお勧めする。
回答山田(AY):サービス利用者の不安を解消するために国際標準を作るが、一から作るものではない。各国法制を基に「本人からの事前同意をとる」といった運営上のルールをガイドライン化する制度に関わる活動、既存の標準をベースに特有の技術条件を洗い出す技術的な活動の両面を進めていきたい。
PHR(個人健康記録)との連携について
Q:PHR(個人健康記録)との相性が高いのではないか。
AT:その通りで、一緒にやれば価値が高まるというマインドを醸成していきたい。簡単にセンシングIoTを組み込めるような、無料のプラットフォームを作るといった仕掛けも必要かもしれない。
AY:親和性は高い。そのためにセンシングIoTデータコンソーシアムはPHRサービス事業協会と連携して、相互に勉強会で紹介するなどの活動を進めている。
普及活動について
Q:コンテナフォーマットの利用例はまだ少ない。まずは国内で実績を作るべきではないか。
AT:しばらくはバラバラに進まざるを得ないが、IEC63430を使うと便利だよね、という実績が出るように支援していきたい。開発効率の向上、コストの低下などに関する説明を強化するためにもコンソーシアムを作っている。コンソーシアムで実装事例を提示していきたい。
AY:実装事例についてはビジネス化されればベストだが、実証実験でも構わないので、実績を上げていきたい。
Q:メジャーなプレイヤーの認識を高める活動も必要ではないか。
AT:海外展開も想定して、英語での説明にも努力している。
AY:米国西海岸のメジャーなプレイヤーは囲い込みに走りがちだが、他国、例えばイスラエル、カナダ、スコットランド、ベトナムなどは日本市場に興味を持っているので、それらとの連携を深める方向で活動を進めている。