「ICT活用を教える現職教員の対応力強化策」

日時:2月27日火曜日18時30分から20時30分
場所:エムワイ貸会議室四谷三丁目 会議室B
東京メトロ四谷三丁目駅前、スーパー丸正6階
司会:山田 肇(ICPF理事長)
講師:上松恵理子(武蔵野学院大学)
定員:40名

上松氏の講演資料はこちらにあります。

冒頭、上松氏は次のように講演した。

日本では総務省がプログラミング教育推進事業を実施しているが、文部科学省等と連携することもなく、今年の3月で終了する。一方で、英国をはじめとする諸外国では取り組みが強化されている。今日はその状況を話す。 

BETTについて

  • 英国では、「BETTThe British Educational Training and Technology Show)」が毎年ロンドンで開催されている。Microsoftや富士通、レノボ等の大企業から小規模の企業まで多数出展しておいる。日本では東京ビッグサイトで行われる教育ICTソリューションEXPOのようなイベントであるが、日本と異なる点は教師と子どもたちが積極的に参加することである。日本では、IT企業と教員・自治体を結ぶビジネスの場として設けられているが、英国では教員が生徒を引率して会場を訪れ、それぞれが興味のあるブースを周るといった「学び」の要素が大きい。最も大きな違いは、教員自身が非常に熱心に学ぶ姿が多く見られる点である。「明日の授業で使用する教材」を研究するために、しっかり見聞きするという意気込みが感じられる。
  • 英国では博物館等を無料で観ることができる。この制度を利用して、児童生徒には課外授業の機会が多く与えられ、できるだけ実物を体験する。実物がなければVRを用いる。ICT教育について言えば、それはプログラミングをできるようにするのではなく、どのように動いているのかを理解することであり、多様なIT利用シーンを体験するために課外授業が用いられ、BRTTもその一環となっている。
  • BETT会場で現職教員の講演を聞いたが、教育学の普遍的な理論、たとえば教育目標等の分類学(ブルーム・タキソノミー)から実践内容の軸を外さないようにしていることが印象深かった。同時に、教員のリーダーシップも求められるようになった。日本の教員は均一な印象があるが、海外には教員を束ねる教員がいる。学校の中でITスキルのある教員が、教育学の普遍的理論を理解しつつ、他の教員にIT教育について教えるといった教員相互の共有の場が存在している。
  • 教員だけではなく、学習者である生徒もデータ分析する時代になってきた。個々のデータを教員が分析するのではなく、子どもたち自身が自分の学習データを分析できるようになるのがこれからの新しいフェーズである。いずれ、生徒の活動や評価が学校や国を超え行われれるようになるだろう。

教科Computingについて

  • ケンブリッジ大学のコンピュータラボラトリーは一般の大学が行っている単位制ではなく、時間制である。学士号は3年、修士号は1年のため、在学中は非常に忙しい。また、成績上位25%しか大学院に進学できない。教員一人に対して学生は一人か二人という小クラスもある。小学校でプログラミング教育が導入されたことから、かつては好きで独学でコンピュータを扱う学生がいた程度だったのが、今ではほとんどが使える状況になってきている。一方、日本には小中学校に情報の教科がない。英国では1995年から始まった教科「ICT」が2014年に廃止され、新教科Computingがスタートした。新1年生からプログラミング教育が必修と位置づけられている。
  • 教科Computingでは、他の学校にネット予約を行うことで、小学生が中学校や高校でのプログラミング授業の参観ができる。教員にとっては教え方の勉強になり、子どもたちにも興味のきっかけになる。

スイスとOECDについて

  • スイス・チューリッヒ大学情報学部長Informatics Europe代表理事であるエンリコ氏に面談した。ヨーロッパ諸国が加盟している情報学根付かせるための機関がInformatics Europeである。今はセキュリティやデジタルリテラシーも重視している。ヨーロッパには、ACMヨーロッパやボローニヤプロセス(ボローニャ合意)といった教育基準がある。こうして、国境を越えた協力や基準が進んでいる。
  • スイスの教育は州ごとに異なるが、日本同様、教員免許状更新講習の制度がある。初任者研修は23年。10年経験者研修が法定研修となっている。スイスでは高校に行くのは20%程度で、中学生の80%は専門学校や就職する。しかし、高校に行かなくても大学や大学院に入るチャンスがある。そのためプログラミングが好きな子どもは、専門学校に行った後に大学等に進学することも可能である。専門学校に行ってから大学進学する学生は非常にモチベーションが高い。また、スイスは銀行がとても多いが、大手銀行トップは専門学校から就職、その後、大学、大学院を経ているケースもある。
  • OECDEducation2030には、個々人に合わせられる学習環境、基礎的な力、識字と計算力、協働して結果をもたらす力、相互作用的で相互支援的な関係といった記載がある。

まとめ

  • 時代に合わせて柔軟に教育の枠組みを変化させる必要がある。英国をはじめ欧州諸国ではその動きが始まっている。現職教員は新しい枠組みでの教育ができるように一生懸命に勉強し続けている。一方で、他校に生徒を連れて見学に出向けたり、教材がネットに豊富にアップされていたり、教員が教員に教える相互協力の仕組みも存在する。こうして、現職教員のIT活用力が高まり、ITを活用する教育の効果も上がっていく。
  • そのような共有の仕組みの中で、プロジェクトベースドラーニングは2時間続きで行う方が、学習効率が良いといった知見が生まれてきた。教員研修もワークショップ型で実施して、評価をお互いに行うというのが一般的である。

講演後、次のような質疑があった。

ITを活用した教育について

Q(質問):シンガポールでは、タブレットを利用した教育が進んでいるのか?
A(回答):ICT教育はとても進んでいる。学習指導要領に一人一台と明記している国は多い。北欧は学習指導要領が非常に薄く、教員の裁量に任された部分が大きいので、教員が自らタブレット利用を進めている。その他先進国でも教室にPCが常設されているケース、BYODのケースがある。スマホの持ち込みが自由な国も多い。日本は平均して学習者約6人に1台しかない。
Q:ほとんどの.授業でスマホなどを使っているのか?
A:その通り。辞書や翻訳ソフトを利用したり、インターネットを使って調べ学習をしたりしている。もちろん、内容に応じて紙と鉛筆も併用している。例えばエストニアでは、教室に端末を持ち込んでいるのが普通の状況である。国語の授業はパソコンを使う。
Q:プログラミング教育ではオブジェクト指向といったことまで教えるのか?
A:そこまで教える必要はないとケンブリッジ大学の先生が述べていた。理由は先生がそれを教えるスキルに達していないこともある。また、小学校で音楽は必修だが、皆がピアニストになるわけではないのと同様に、皆がプラグラマーになるわけではなく、プログラミング的思考の基礎を身に着けておくのが重要であるという意見が多かった。学校の先生方の中には、プログラミングが好きになってもらいたいという思いもある。
Q:教科書だけ見てもイメージがわかない場合もあるのではないか?
A:インターネットも同じである。課外授業では、実物を見ることが大切にされている。体験学習にはVRを使うこともある。課外授業やネットでの学習を総合して、レポート、論文を書くことができるように、小学生にもそういった文章の書き方を教えている。 

英国での教員養成について

Q:講演資料にあったデジタルスクールハウスとは何か?
A:国の機関ではない。いろいろな会社がお金を出資して、教科Computingの授業を支えるためのワークショップを行ったり、教員の支援を行ったり、教科書を作っている。ヨーロッパには寄付や企業のお金で成り立つ公的機関が多い。教員は、困ったらそういうところにアクセスし、または、ワークショップ等に参加する。韓国では教員免許を持つICT支援員も存在するので研究授業なども企画できる。英国ではワークショップなどの企画は国が一斉に行うというものはなく国は関与していない。
Q:セキュリティは社会基盤で子供の時から学ぶという話があったが、教員育成を行うにはどうしているのか?
A:日本ではセキュリティを専門に学ぶ大学は多くない。まずは子どもにも道の渡り方を教えるようにセキュリティの概念を教えなければならない。基礎的なことはすべての子供に教える必要がある。そのためには、早期からデータの概念を理解し、それから、セキュリティを理解するというようなことが必要である。セキュリティの専門家が日本は不足しているため、とても時間がかかる。小学校から一斉に教科Computingを教えることになったため、教員育成は間に合わない部分があるが民間の機関や公的機関、OCRのような評価規準の機関のデータやテスト問題を教員が参照できるのでその点は教材もたくさんあり恵まれている。なかなか教員育成は大変である。これはイギリスを含めた欧州全体に言えることだが、大学教員よりも就職した方が高賃金のため、教員不足が課題である。