セミナーシリーズ 第1回「デジタルファースト法の成立を目指して」 木原誠二自由民主党衆議院議員

日時:3月29日金曜日17時30分から18時45分
場所:衆議院第1議員会館第6会議室
〒100-0014 東京都千代田区永田町2丁目2-1
講師:木原誠二自由民主党衆議院議員
司会:山田 肇(ICPF) 

木原議員は内閣官房作成のデジタル手続き法案概要を配布し、次のように講演した。

  • 自由民主党政務調査会副会長を務める財務省出身の議員で、主にIT、金融、中小企業政策に取り組んでいる。IT分野ではGAFAへのヒアリングを実施している。公平・透明な市場環境を作り、その中に日本発のプラットフォーマーが誕生するため、自由な米国とGDPRで規制する欧州の中間に立ち位置を求め、Society5.0を構築していきたい。
  • 政府提出のデジタル手続き法案(閣法)の前に議員立法案(議法)があった。超党派の「デジタルソサエティ推進議員連盟」が準備した議法案を踏まえ、一部を閣法として提出した。議法では社会全体のデジタル化を目指していたが、閣法は政府の行政手続きに限られ、その点で100点満点ではない。閣法が成立したら、すぐに議法を提案したいと考えている。
  • 2002年の行政オンライン化法との違いは次の通り。どの手続きをオンライン化するについて省庁の裁量ではなく、内閣が「情報システム整備計画」として決めるようにした点。オンライン化が原則だが、利用数が少ないなど効果が薄いものは無理なオンライン化しないとした点。添付書類や印鑑証明書は郵送せよといった、「なんちゃってオンライン化」は許さないとしている点。
  • デジタル手続き法案のポイントは、デジタル・ファースト、ワンスオンリー、コネクテッド・ワンストップ。これが政府によるすべての行政手続きに対する原則となる。
  • 具体的な内容ではマイナンバーとマイナンバーカードの利用が重要である。通知カードは廃止する、在外邦人もマイナンバーを利用する、健康保険証の代わりにマイナンバーカードを使用する、などの変化が起きる。マイナンバーカード普及の施策が、消費税増税に関連してオリンピック終了時から実施されるプレミアムポイント制度である。マイナンバーカードの公的個人認証サービスを利用して自治体ポイントや日本ポイントが付与できるようになり、将来的には児童手当なども銀行振込ではなく、ポイントとして付与できることで、政府の新たな政策プラットホームとしたい。
  • デジタル手続き法案の課題は地方に対する取組みが弱い点。憲法に地方自治の本旨が規定されており、義務化は難しい。のちに提出する議法で対応していきたい。そのほか、民間手続きのデジタル化、スマホ本体に電子認証サービスを利用したデジタルでの本人確認などもできていない。

講演の後、以下の点について質疑が行われた。

地方公共団体への義務化について
Q(質問):議法が成立しても地方自治の本旨が災いして義務化できないのではないか。
A(回答):自治体が積極的に取り組みようにインセンティブを設けようとしている。また、標準化や共通化を進め、小さな自治体を中心に、自治体クラウドを活用して共通のシステムが活用できるなどの対策を考えている。
Q:地方自治の本旨がありながらもマイナンバーは全国で導入されたが。
A:国がすべてを指図したわけではなく、マイナンバーを利用する情報システムは各自治体が構築している。その上で、自治体間あるいは政府との情報連携の共通プラットフォームを国が提供している。日本ポイントも、自治体ポイントの共通プラットフォームとして構築されるだろう。

マイナンバーの普及について
Q:健康保険組合の多くは民間だから強制できないという問題がある。政府は指導力を発揮すべきではないか。
A:その通り。まずは利用を促進する施策を実施し、また、API公開など付加価値が生まれる仕組みも提供していく。
Q:マイナンバーは本人の認証に用いられる。一方企業発行の電子文書の真正性を担保するトラストサービスが実施されていない。世界市場での競争力にも影響するのではないか。
A:理解している。政府はトラストサービスは中期的・長期的課題と言っているが、一刻も早く取り組むべきと考えている。
Q:そもそもデジタル化と言っているのに、マイナンバーカードという物理的なものを普及しようというのか。
A:本人確認に免許証、パスポート、健康保険証など物理的なものを利用しているという社会の現状がある。何枚もカードを持たなければいけないという点は、マイナンバーに集約していきたい。
Q:国民が手続きする際にはデジタルでも、官庁の中でプリントアウトして処理するのでは無意味だ。
A:PDF化すればデジタル化できたと考えるといったリテラシーの低さが官僚にはあるが、指摘の通り、すべてデジタルで完結する方向に進めなければいけない。そのために、公文書管理は全て電子化する取組みをスタートさせている。
山田:すべてをデジタル化しないと、視覚に障害のある官僚は仕事ができない。障害者を包摂する政府を作るためにも、行政内部のデジタル化を進めてほしい。

アクセシビリティについて
Q:視覚障害者は代理人に書類作成を依頼せざるを得ない。そこでプライバシーが漏れる。デジタル化を進めて自ら手続きできるようにしてほしいが、一方で利用できないシステムでは困る。きちんと対応して欲しい。
A:利用できるようにするために、デジタル活用共生社会創生会議で具体的な施策を検討している。
山田:上記会議に関わってきたが、政府システム調達の際にアクセシビリティに対応することについて、今までよりも強い義務を課する方向になっている。
Q:聴覚障害者はモノが見える。それゆえアクセシビリティに問題があると気づいてくれないことがあり、配慮が不足する場合もある。この点もしっかり対応して欲しい。
A:重要な指摘であり、きちんと対応していく。

基本的な事項について
Q:そもそもなぜ法律は縦書きなのか。
A:法律をデータベース化する、英文で提供するなど、新しいサービスを進めていく中で縦書き問題も解決していきたい。
Q:デジタル手続き法の中に、戸籍や住民票の附票を150年間保存するというのがあって驚いた。土地の所有権をたどるためだろうが、むしろ、土地登記の手数料を無料にするなどの対策のほうが費用対効果は高いのではないか。
A:登記や印鑑を用いた手続きなど、もはや時代遅れかもしれない手続きが残っている。政治は一気には前に進めないが、今後、できる限り広く理解を得て、時代にあったものにしていきたい。