メディア J-POPの未来 麻生香太郎氏(作詞家・評論家)

この十年ほどの間に音楽産業に大きな変化が生じてきました。2012年の音楽ソフト(CD、DVD等)生産金額は3108億円で、前年度より持ち直したものの、2002年の5790億円に比べれば約半減しました。音楽配信の市場規模は543億円に過ぎず、期待ほど成長していません。
一方で、コンサートは活況を呈し、チケット価格の上昇が続いています。政府はクールジャパンの一環としてJ-POPの海外展開を支援しています。「初音ミク」に象徴されるボーカロイドも多くの人々の関心を集めています。
わが国の音楽産業はどんな方向に向かうのでしょうか。J-POPにはどのような未来が待っているのでしょうか。セミナーシリーズ「メディアの未来」の第2回では、最近『誰がJ-POPを救えるか?』を刊行された麻生香太郎氏をお招きし、「J-POPの未来」についてお話しいただくことにしました。
皆様多数のご来場をお待ちします。

日時:5月22日(水曜日) 午後6時30分から
場所:アルカディア市ヶ谷(私学会館)
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:麻生香太郎(作詞家・評論家、日経エンタテインメント!スーパーバイザー)
参加費:2000円(ICPF会員は無料です)
定員:50名(先着順)

講演要旨:
学生時代から作詞を始め、その後、断筆宣言をし、ジャーナリストとして業界をウォッチしてきた。今までの体験を元に「誰がJ-POPを救えるか?」を執筆した。
J−POPの歴史はすなわちソニーミュージックの歴史である。ビクター、コロンビア、キングなどは作詞家作曲家を専属にしていたが、ソニーが廃止し、フリーランス形態にした。その後、70年代に歌謡曲黄金期が始まり、キャンディーズや花の中三トリオなどが誕生した。ところが、レコード大賞などで恣意的に受賞者・曲が選定されていることに気づき、音楽のユーザである「こどもたち」は急速に歌謡曲から離れていった。
80年代になると、ライブハウスで活躍するアーティストが人気を集めるようになり、90年代には、その反動でテレビの音楽番組が人気になった。小室哲哉などの音楽プロデューサーが全盛を極めたのもこの時代である。この時期に8cmCDが普及した。当初ソニーは反対していたが、レコードに針を落とさなくても簡単に再生できることから、「こどもたち」には非常にありがたい媒体となった。これが、90年代のミリオンセラーバブルを生み出した。
ソニーは90年代半ばから配信の時代がくることを予測していたが、ATRAC方式という強い著作権保護方式にこだわっていた。日本における配信はATRACでと業界を説得したが、これが後々iPodに対抗できない原因となった。
2001年にiPodが登場したが、これはMP3方式で簡単にコピーができた。日本の音楽業界は反対し、CCCDも発売したし、アートワークも貸し出さないといったことを続けた。日本の業界が世界のトレンドから遅れ始めたのは、この時期である。
それ以前にも、洋楽CDのレンタルを新譜発売から一年間禁止するという制度が導入されたことがあった。その結果、洋楽を聴く人がいなくなった。音楽は、まずは聴いてもらう人を増やし、それからお金を取らなければならない。ほかにも、有線放送に関して紛争が起きたことがあった。有線放送とレンタル業という二回の紛争に、なぜ学習しなかったのだろうか。J-POPの停滞はここに原因がある。
00年代は配信の時代である。音楽だけではなく、映像込みのコンテンツが「こどもたち」に流通している。一方でCDが売れない。CDを売るための営業はもはやいらないが、人を切るのが苦手な日本では、業界のリストラ・再編の動きは遅い。

講演後の質疑応答の要旨は次のとおりである。

音楽業界が対象とする市場について:
Q(質問):「こどもたち」とはだれのことか。
A(回答):日本の音楽産業は70年代から、対象を中2から高2に置いている。彼らにウケる歌とアーティストがメインになっている。大学進学や就職によって、日本人は音楽を買わなくなってしまう。日本はティーンエイジャーを相手にしていたため、ユニゾンはできても、ハーモニーが取れない。このため国際市場に進出できない。韓国や米国では、歌がうまくなければ歌手ではない。オトナのための音楽を作りたいという日本のレコード会社もあったが、何を作ったらよいのかわからなかったのも事実。

音楽配信の動向について:
C(コメント):配信の市場規模はCDの売り上げ減を補う程ではないが、製造と流通のコストがないので、利益率は高いのではないか。
Q:エンタメに携わっている人は仕事に誇りを持っているが、同時にネットについて誤解しているのではないか。出版は「紙」だと言って、電子出版に反対したり。映画においても、出版においても、音楽においても、これが全ての元凶ではないか?
A:ある程度年齢を重ねると、環境を変えるのは怖い。今日の続きが明日であってほしい。それが保守的な考え方の源。業界構造を変えるのは、様々な権利団体がいるため、困難なところがある。霞ヶ関は若い人たちを応援するほうが将来のためだが、古い集団が審議会等を抑えている。
Q:パッケージと音楽配信の動向はどうなっているのか。
A:世界でCDが一番売れているのは日本である。クラシックCDはヨーロッパで売れていると思っていたがそうでもない。アメリカでは、ストリーミングのスポティファイがでてきた。アップルもiRadioとして参入予定である。レコメンド方式を取り入れたり、ソーシャルネットワークと交流できたり、し始めた。日本でも、月額聴き放題が唱えられて3〜4年たつが、業界は現在も反対している。聴き放題で売り上げ減ることを懸念している。BeeTVはずっと赤字だったが、黒字に転化した。インターネットの中の放送局的な役割を果たしていくかもしれない。
Q:懐メロの配信、YOUTUBEにアップして収益化といったビジネスが生まれないのか。
A:権利処理のコストがあるが作詞家が行方不明な場合もある。レコード会社はネットに関わりたくないと考えている。懐メロ世代はPCを使えないし。

音楽視聴習慣について:
Q:違法ダウンロードで「こどもたち」を捕まえるべきと業界は本当に考えているのか。
A:レコード会社はそのように考えているが、アーティストは作ったものを聴いてほしいと思っている。
Q:アルバムを聴く習慣はなくなったのか。
A:今は一曲単位でダウンロードする時代である。実は、B面はA面になれなかった曲で、アルバム曲はB面にもなれなかった曲の抱き合わせ商法だった。もはや、それは通じない。そのうえ、映像がないと「こどもたち」は満足しない。YOUTUBEで、どこで早送りを止めても、よいフレーズが出るような音楽が主流になっている。

レコード会社の将来について:
Q:レコード会社の役割はどうなるのか。なくなるのか。
A:レコード協会の会員会社25社あるが、せいぜい2〜3社でよい。もはや、レコード会社の宣伝と広告は不要。アルバムも不要であるため、プロデューサーとエンジニア、アーティストが集まるカンパニーとして、集約化していくだろう。ただし、レコード会社はなくなってもJ-POPは存在し続けるだろう。
Q:CDに代わる収益源として何があるか。
A:ライブやグッズ。粗利が高いのはグッズだが、元々はインディーズの手法だった(インディーズは90%位の粗利が取れるが、メジャーでは10%くらいになってしまう)。東京ドームに動員できる10万人のファン(リピーター)がいて、グッズ販売できればよい、というビジネスモデルが生まれている。

ボーカロイドについて:
Q:ボーカロイドをどう評価するか。
A:自分が作った曲を人工音声が歌えば著作権法違反にはならない。その流れで、ボーカロイドが生まれ、ボカロプロデューサが出現し、ブームが来た。今では、ボカロプロデューサの囲い込みが始まっている。
Q:ボーカロイドも囲い込まれると著作権問題が起きるのか。
A:ボーカロイドの映像をアップする事業者がJASRACと契約していれば包括支払いで済むはずだ。日本は著作権法を強化しているが、それだけ業界がネットを恐れている。J-POPが沈んでいるのは、ネットに対する見極めができていないからだ。

クールジャパンについて:
Q:政府はクールジャパンを推進しようとしているが。
A:政治がエンタメに関与してはだめ。「きゃりぱみゅ」とかを安倍さん知らない。エンタメは愛情。愛情があるかどうかが問題だ。