カテゴリー別アーカイブ: 平成29年度

シンポジウム「アクセシビリティ法は社会をいかにして・どのように変えてきたか―諸外国の事例を中心に」

主催
特定非営利活動法人情報通信政策フォーラム(ICPF
共催・協力
日本障害フォーラム(JDF
特定非営利活動法人ウェブアクセシビリティ推進協会(JWAC
ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC
後援
公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会(JSRPD
協賛企業
イデア・フロント株式会社
株式会社インフォアクシア
株式会社ミツエーリンクス 

月日:626日月曜日
場所:エムワイ貸会議室 四谷三丁目(四谷三丁目駅前)会議室A
情報保障:手話通訳、要約筆記、ボランティアによる逐次通訳 

プログラム
200分 主催者挨拶:山田肇(ICPF理事長)
210分 ジェームズ・サーストン(G3ict
講演「アクセシビリティ法をめぐる世界の動向」
250分 石川准(国連障害者権利委員会委員)
講演「国連障害者権利委員会は何を求めているのか」
310分 休憩
320分 パネル討論
三宅 隆(日本盲人会連合 情報部長)
小出真一郎(全日本ろうあ連盟 理事)
新谷友良(全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 理事長)
渡井秀匡(東京都盲ろう者支援センター)
430分 閉会 

サーストン氏の講演資料はこちらにあります
石川氏の講演資料はこちらにあります
小出氏の講演資料はこちらにあります
新谷氏の講演資料はこちらにあります
渡井氏の講演資料はこちらにあります

以下の記録は山田肇が作成したものであり文責を負う。

冒頭、サーストン氏が次のように講演した。

  • G3ictは国際連合の支援で活動している組織であり、障害者権利条約(CRPD)に関わる活動も実施する小さい組織である。障害者権利条約の要件に対応した情報通信技術(ICT)の促進をミッションとして、グローバルに取り組んでいる。
  • 今日の世界はどの程度アクセシブルなのか? 障害者権利条約進捗報告を100か国以上について分析した。その国の主要言語によるスリーンリーダーが市場に提供されている国は57%、公用語による音声認識がパソコンで可能な国が55%、視覚障害者向け公共図書館・電子書籍サービスが32%、アクセシブルな政府ウェブサイトは45%、テレビの音声ガイドは17%というように満足のいく結果ではない。
  • 良い知らせもある。障害当事者は世界に10億人もおり、家族・友人を加えると 35億人に達する。米国では人口の19%が障害を持っているが、65歳以上では50%に増加するなど、高齢化によってアクセシビリティの重要性が増している。市場規模も拡大している。オリンピック、ワールドカップ、企業マーケティング、メディアによってこの問題への注目度は増している。技術は進歩し、急速な製品サイクルを通じてICTアクセシビリティのイノベーションは加速し、これをモバイル業界が推進している。 今日の支援技術は明日の主流技術になる。
  • デジタルインクルージョンの推進力として公共政策が重要である。ウェブを通じた情報の受発信、基本的人権、教育、雇用、金融サービスと多様な側面での公共政策が期待される。政策活動は米国とEUのみでなく、ラテンアメリカにも押し寄せている。
  • 公共政策のうち調達政策が重要で、アクセシビリティに配慮した製品サービスの購入を公共調達で義務付ける必要がある。アメリカではGDP1015%が公共調達であり、政府は技術の大口顧客(技術市場の25%が連邦政府の購入)である。公共調達政策はアクセシビリティの推進に効果が高い。
  • 公共調達におけるアクセシビリティ配慮はまだ33%の国でしか実施されていない。米国にはリハビリテーション法508条があり、EUETSI EN 301 549に基づく公共調達について指令を出している。すべての公共団体は、国民、市民、公務員が利用するすべての製品、サービスの公共調達に必須の要件としてアクセシビリティを含めなければならない。
  • 欧州にはアクセシビリティ法制定の動きがある。EUにおいて、多くの製品、サービスに障害者がよりアクセスできるようにするための法律である。法的拘束力はありEU加盟国は適用義務を負う。コンピュータ、オペレーティングシステム、ATM、発券機、スマートホン、デジタルテレビサービス、電話通信サービス、銀行サービス、電子書籍、電子商取引などカバーする範囲は広い。
  • カナダは、障害のあるカナダ人法(案)を用意している。この法律はすべての企業に適用される。カナダ王立銀行、モントリオール銀行などの銀行、カナダ航空、Via Railなどの州間旅客サービス、Rogers and Bellなど電気通信事業者、すべての連邦政府の雇用者が対象である。雇用、建物、公共空間へのアクセス、情報通信など範囲は広い。2018年春までに、議会で法案を上程する用意を政府は行っている。
  • オーストラリアは新基準としてAS EN 301 549: 2016ICT製品、サービスの公共調達に適したアクセシビリティ要件」を公表した。欧州規格EN 301 549の本文をそのまま採用している。基準の採択以降、財務省は連邦調達規則を更新し基準への遵守を求めた。
  • 最後に、①市民社会を取り込む、②アクセシビリティ技術の市場を支援する、③政策は実施する、④障害者への意識を向上する、⑤世界中の良い事例を活用する、⑥国全体だけでなく地方の政策も考える、⑦公共調達政策を採用する、を強調したい。

次に石川氏が講演した。

  • 国際連合の障害者権利委員会は障害者権利条約の実施状況を点検し、各国に勧告を出している。今期はカナダに勧告したが、カナダは障害のあるカナダ人法の制定を進めており、期待が高いので強い勧告を出した。
  • 具体的には、現状の法制度、政策を条約の完全実施の観点から再検証するよう求めている。物理的、交通、情報コミュニケーションをアクセシビリティ基準でモニタリングする。「easy to read」に配慮した情報提供に努める。テレビの音声ガイドを充実させる。英語とフランス語が公用語なので、フランス語におけるアクセシビリティ対応の強化、すべての教員に手話とアクセシビリティの研修、選挙公報におけるアクセシビリティの確保などである。
  • マラケシュ条約をカナダは昨年6月に批准し、それで20か国が批准したため発効した。それ以外のマラケシュ条約を批准していない国には批准を求める勧告を出した。
  • 日本に関する私見を申し述べる。我が国の障害者施策では情報通信のアクセシビリティは弱点である。それは、根拠となる個別法が無いためである。それに代わって、みんなの公共サイト運用ガイドラインがどの程度効果を持つか、障害者政策委員会は注目している。放送のアクセシビリティに関する指針も同様であり、2017年度末までに字幕付与可能な番組には100%付けるように求めている。
  • 電子書籍のアクセシビリティは空白地帯だが、紙の書籍に比べてユニバーサルデザイン化は容易なはずである。しかし政策が無い。諸外国のアクセシビリティ政策のおかげで、Kindleの日本語版がアクセシブルになっているという状況である。映画では字幕は付与されているが上映館の判断で字幕がOFFになっている。AR技術を使って必要な人だけに見えるようにすることが可能である。これらについて、諸外国の情勢を学び、前に進めるのが重要である。

パネル討論ではまず三宅氏が講演した。

  • 日本盲人会連合で声が最も多いのは放送に関するアクセシビリティである。視覚障害者の9割近くがテレビを視聴しているが、緊急放送、速報がテロップ表示されても音声ガイドが出ない。チャイムの合図で緊急のお知らせがあることはわかるが、表示内容が把握できない。また、テレビ受像機では限られた機種だけ音声ガイドが使え、機能も限られている。
  • 情報技術の進歩で様々なことができるようになった。しかし、技術の進歩で、今までできていたことができなくなった。コンビニのセルフレジはアクセシブルでないため難しくなった。宅配ボックス、宅配ロッカーでも同様。ICTを活用し、スマホから操作もできるよう改善してほしい。
  • 選挙公報は視覚障害者が利用できない。音声版、拡大版、PDFがあるが、これらは選挙管理委員会の責任ではなく、二次利用的に発行されたものでしかない。

小出氏は次のように講演した。

  • 東日本大震災ではろう者の犠牲者比率が健常者の2倍になった。情報受発信に問題があったからだ。国会内も手話での中継はできていない。全日本ろうあ連盟では手話言語法、手話言語条例の制定を求め、広がりを見せている。
  • 日本の法律では情報アクセシビリティについて規定が無い。これが壁の一つになっている。国土交通省で先日バリアフリーガイドラインを改正したが、要望は出したがすべてが反映されたわけではない。
  • 手話通訳者の問題もある。手話通訳者の人数が少ないが依頼は増えている。遠隔での手話通訳も進めているが、行政には理解不足がある。
  • アクセシビリティについて社会での理解が進み、解決してほしい、このために情報アクセシビリティフォーラムを秋葉原で2013年、15年に実施した。国会議員なども集まり、法改正を働きかけている。また、全日本ろうあ連盟は情報アクセシビリティ法のガイドラインを作っている。

新谷氏が講演した。

  • 全日本難聴者・中途失聴者団体連合として話をする。WHO調査では36千万人が聴覚障害で、人口の5%に達する。18千万人は高齢者で、高齢者の聴覚障害は騒音が問題である。「Make Listening Safe」を掲げて活動しているが、聞こえの環境改善は国として取り組む問題である。
  • テレビ字幕には問題がある。字幕付与のできる番組にはすべて字幕を付けるという施策が、今年が最終年度を迎える。しかし、これは「字幕付与」できる番組に限られている。時間的に無理なら対応しないということになっているが、災害時はどうするのか? 国会中継には字幕付与可能のはずで技術的問題ではない。BSCS、インターネット動画にも指針がない。
  • 日本映画610のうち81に字幕がついた。制作段階では日本映画を作れば必ず字幕を付けて準備しておくというように取り組む必要がある。米国では教育用DVDへの字幕が突破口になった。学校用のDVDに字幕が無いものには、納入を認めないとした。このような政策にも効果がある。
  • 電話リレーサービスが障害者基本計画に明記されなかったのは残念である。民間業者がチャレンジしてきたが、通信事業者を巻き込んだものが無く事業撤退を繰り返している。今では厚生労働省が予算を付けてパイロット事業的に支援している。総務省は民間通信事業者の「みえる電話」を推奨しているが、1000人くらいしか普及していない。。事業者のサーバに音声情報、文字情報をいったん保存しなければならないが、個人情報保護の観点から事前同意が必要ということになっているそうだ。

渡井氏が最後に講演した。

  • 東京都盲ろう者支援センタは日本で初めての盲ろう者向けリハビリ施設である。盲ろう者は見え方、聞こえ方がひとによって様々で、少し見える人から全く見えない人、少し聴こえる人から全く聴こえない人の4つのタイプがある。
  • 盲ろう者はコミュニケーションと移動と情報の3つの困難を抱えている。特に全く見えない・聴こえない盲ろう者はテレビなどが見られず情報は全く入らない。以前ある研究所が字幕放送やデータ放送を点字に変換するシステムを開発して、盲ろう者の多くが期待を寄せていたが5、6年程前に立ち消えになってしまった。実用化には多大な費用が掛かるということで、それ以降、開発が進んでいない。
  • 盲ろう者は法的に位置づけされていないため、視覚障害者や聴覚障害者の制度を使っている現状がある。しかし、まったく見えない、全く聞こえない盲ろう者の場合、情報をアクセスするための設備を整えるためには視覚障害者の補助だけでは足りない。情報弱者である盲ろう者であるほど十分な支援受けられない現状がある。
  • 聴覚障害から盲ろう者になった人は、見えていた間は手話言語で生活しており、音を聞いている訳ではない。ところが点字の場合は音をそのまま点字にする形が基本なので、ろうから目が見えなくなった盲ろう者には全部かなで書かれた文章は理解がむずかしい。点字訓練のプログラムの工夫や、点字の利用が難しい盲ろう者への情報の伝え方を考える必要がある。
  • ホームページでは画像情報が読み取れない状況が増えている。テキストベースで読み取れるよう改善してほしい。字幕情報、データ放送もテキストベースで配信されれば、点字に変換できる。アクセシビリティの改善も求めていきたい。

以上の講演についてサーストン氏、石川氏から、情報アクセシビリティを推進する強力なリーダシップが必要であり総務省の力に期待する、アクセシビリティの充実は国の政策に依存するといったコメントがあった。

会場の日本盲人会連合関係者から、アクセシビリティの質をどのように担保するかという質問があった。サーストン氏は、技術基準を定めそれに適合しているかで判断するのがよいと回答した。

最後に司会の山田氏が次のようにまとめた。わが国でアクセシビリティ法の制定を求めていく、きっかけとなるシンポジウムとなった。関係組織と協力して今後も訴えを続けていきたい。

セミナー「教育の情報化を推進しよう」

共催:
超党派「教育における情報通信(ICT)の利活用促進をめざす議員連盟」
特定非営利活動法人 情報通信政策フォーラム(ICPF
一般社団法人 デジタル教科書教材協議会(DiTT
月日:2017523日(火曜日)
場所:参議院議員会館1階 101会議室 

冒頭、超党派議員連盟会長の遠藤利明衆議院議員は次のようにあいさつした。

  • ICTの教育現場への導入について、子ども・教員にとって負担になるという意見もあるが、海外では導入が進んでいて、効果が出ている。また、ICTは障害者教育や遠隔教育の支援にも役に立つ。
  • ICTというと若い人が使いこなしそうな印象があるが、むしろ経験豊かな教員がうまく使えるという意見もある。情報化により「教育がこう変わる」という点を広めていきたい。
  • 教育の情報化推進のためには、その裏付けとしての法律が必要、今超党派の議員連盟で法律案の国会提出に向けての準備を進め、現案について各党に諮っているところだ。現在の骨子案について石橋参議院議員が説明する。

続いて、議連会長代行の中川正春衆議院議員があいさつした。

  • 議員立法によって教育の情報化政策の基本方針をまとめることを目標に、文部科学省、総務省、経済産業省などとも協力している。
  • 中身の議論を深め、議連に参加のない共産党も含め、国会議員の皆が納得する法律にしたい。

次いで、議員連盟に参加している次の国会議員が順に一言ずつ、推進への意気込みを語った。山本博司参議院議員、原口一博衆議院議員、渡海紀三朗衆議院議員、左藤章衆議院議員、盛山正仁衆議院議員、田島要衆議院議員、瀬戸隆一衆議院議員、櫻田義孝衆議院議員。

議連で事務局長を務める石橋通宏参議院議員が学校教育における情報化の推進に関する法律案について講演した。石橋議員の講演資料はこちらにあります。

  • 2013年に遠藤議員等と超党派による勉強会を立ち上げ、教育のICT化促進について検討を始めた。外部から有識者アドバイザーにも参加してもらい議論を深めてきた。2015年に議連化し、予算要望の提出や政策提案を進めてきた。現在衆参75名の議員が参加(無所属も含む)している。2009年フューチャースクール事業が開始された。その後3年単位のプロジェクトが繰り返され現在に至っている。その間に様々な課題を見つけ対応してきた。ICT化のメリットを明らかにし、啓発活動を段階的に進めてきた。
  • 今後はICTを活用し、一斉学習から課題解決型学習に変化し、生徒ひとりひとりの要望に応え伸ばしていく教育を提供していく。過疎地域、離島等、どこにすんでいても豊かな教育を受けられるようにする。世界と繋がるICTの効果をどこからでも享受できるようにしたい。教職員の過重労働問題については、ICT導入によって最初は負担が増えるが、ある時点で負担は軽減していき、子ども達に向き合う教育の時間が増えた実績もある。今後とも進めていきたい。
  • 教育の情報化について法律を制定する動機は、自治体間格差の拡大、学校間格差の拡大を解決したいからだ。「全ての場所での学びを保証する」という議連の意思に沿う対応を求めるためだ。子どもたちのインターネット上での犯罪やモラル低下も懸念されているが、学校の中で正しい活用を教えることで防止したい。
  • 推進法案の目的は、これからを生きる子ども達へ豊かな学びを提供することにある。課題解決型のICT教育とこれまでの教育のよいところをミックスして、新しい教育を実現する。基本理念として、教員の負担を軽減しつつ、全ての子どもに豊かな教育を保証することを掲げている。具体的施策の中では、障害者教育へのICTの活用、病児教育の推進などが各党協議の中で優先事項として浮上してきている。
  • デジタル教科書は難しいところもあるが、長期的には正規化を目指していかないといけない。著作権法上の教科書の特例についてデジタル教材にも適用できるかを考えると教科書化が必要になる。
  • 今国会会期末に向け法制局と議論しながら条文整備を急ピッチで進めている。しかし、日程的には厳しい。各党には方向性は了解してもらったが、条文の了解も得ることを考えると日程的にはギリギリである。まずは、国会提出することが大事。そして成立へ進めたい。今後とも、ご支援ご協力をお願いしたい。

次いで、菊池尚人DiTT理事が講演した。菊池氏の講演資料はこちらにあります。

  • これまで、議連では国会議員にアドバイザーが加わり侃侃諤諤の議論を進められてきた。法案は衆参法制局、文科省、総務省の協力もあり通常の内閣提出法案と何ら遜色ない仕上がりになると思う。DiTT2012年、独自に法案を公表した。今回の法案はセキュリティ、病児等対応など具体的な施策が広く盛り込まれており、さらに進んだものになっている。法案の提出、成立を大変期待している。
  • 2011年には佐賀県武雄市の実証実験に協力したが、当時の小学5年生は今年高校を卒業する。この間に教育情報化は格差が広がっているのではないか。武雄市は日経BP社の情報化ランキング1位であるが、上位20位は佐賀、徳島、岡山などに偏っている。これを大きく変えうるのが今回の法案だ。
  • 2020年にプログラミング教育が小学校で必修化される。それまでに端末の低廉化はさらに進む。アメリカでは2万円程度のChromebookが学校急速に普及している。Windows10sを搭載した端末も同程度の価格になる。クラウド化とシンクライアントによるシステムの構築でセキュリティとコストの問題に目途がつく。
  • 教育情報化で日本は決して進んでいるわけではない。PISA2015では読解力において日本の順位が大きく低下した。「回答の仕方が、紙からコンピュータへ変わったことが一因」に挙げられた。また、15歳児が平日学校外でインターネットを利用する時間もOECD平均以下。インターネットには負の側面はあっても、対策を講じながら利用していかなければいけない。
  • 教育には長期的な効果が経済にも社会にもある。今考えるべきは数十年後の社会を展望しての教育の在り方。2030年代には世界で20歳代の識字率が100%になり、同時に世界全体でネットへのアクセスが100%になる。その時代には現在の先進国と後進国の教育環境は同一になる。長期的な国家戦略が求められる。
  • 人工知能が急速に進展している。しかし、当面、人工知能はマネジメントや創造性、ホスピタリティが不得手だと言われている。それらを伸ばす教育が必要だ。2040年代は人工知能を補助的に使ったり、代替手段として使ったりする社会になる。歴史的には識字率の上昇が宗教改革など近代化を誕生させた。その識字率が100%になるタイミングで人工知能が普及する社会になる。近代化の開始以来、500年ぶりに大きな歴史的転換が訪れる。
  • 教育はこれまでもこれからも最重要社会資本。未来に向かって、DiTTは新たなビジョンを作成する。直近では、関係者とともにデジタル教材の権利処理スキームを構築する。あわせて、プログラミング教育の推進に寄与する。

次いで、山田肇ICPF理事長が司会して総合討論が行われた。主な議論は次のとおりである。

著作権について
原英史規制改革会議委員:「遠隔教育を本格推進すべき」という答申をまとめ、今日、総理に提出した。途端に関係省庁、現場から「教育は対面ですべし」「教員の数を減らすような軽々しい意見はどうか」といった厳しい指摘は出ている。そのようなことは一言も言っていない。教育の質を高める、教員負担軽減のために遠隔教育の使えるところを使えばいい。ところが、遠隔教育での利用は、著作権についても文科省と並行議論になっている。授業における著作物利用は対面であれば問題ないが、遠隔授業ではいちいち許諾を得る必要がある。文化庁の検討する類型提示のようなやり方では現場は判断できないし、「紙はOKだが遠隔教育なら補償金を出せ」ではICTの活用は進まない。
原口衆議院議員:クラウド化しないとセキュリティが弱い。スタンドアロンで入口がたくさんあると弱くなる。入口をひとつにすることでシステムを守る。しかし、そうすれば必ずネット配信が必要になる。紙に関する著作権規定をデジタルに移すのがほんとに正しいのだろうか。極端に言うと著作権フリーの教材であれば全てが解決する。紙は紙で守ってICTICTとしてコンテンツを整えた方が早いのではないか。
会場:法案に著作権に関する記述が足りない気がするが?
石橋参議院議員:これは推進法案で各論ではない。この法案はプログラム法案である。学校現場で教材として使うものを広く対象にする(どこかで線は引く必要はあるが)。具体的な個別法を作っていければと思う。 

教育の方法と教員の負担について
会場:きめ細かい教育をICTで実現するのを期待するのは確かにそうだが、きめ細かい教育の導入により、現在よりも教員に負担がかかることを懸念している。そういう点の手当てに関する議論が上がっていないのではないか?
石橋参議院議員:実証実験でそういう懸念もあった。法案に記載はないが、その先で実施プログラムを作る段階で、総合的な施策として講じていく。
原口衆議院議員:自治体によって環境は様々なので、それぞれの工夫は入れればよい。一方で共通に必要なものは統一して作る。ベースは統一して作らないと、教員の負担軽減はできないと考えている。
会場:たくさん学びたい学生と、追いつけない学生が出ると思うが、どのレベルの学生に合わせればいいのか?
石橋参議院議員:これからの教育は一斉学習ではない。それを前提としたうえで、正規化されたデジタル教科書を用いる個別学習をどうビルトインしていくか、議論していきたい。
上松恵理子武蔵野大学教授:先進国になればなるほど教育目的を立て、教育の目的に合わせて子どもを伸ばしている。クラウドの中にいろいろ入れてどんな端末からでも資料を取得できる環境を構築して個別学習に役立てている。著作権の処理も済んでおり、さらに学習を自動評価できるシステムもある。当初は支援員が必要だが、教員が習熟すれば負担は軽減される。
山田ICPF理事長:全員に同じ端末を配る必要があるか。ほとんどの家には余っている端末がある。中学校ぐらいであれば家から持っていた方が早い思うが?
石橋参議院議員:法案には「皆に同じものを配る」とは敢えて書かなかった。端末に依存しないクラウドを整備できれば解決できる問題である。最適な環境への対応を国に義務化することだけで済ませている。
会場:デジタル教育というがアナログ教育も重要ではないか?
石橋参議院議員:その通り、組み合わせて新しい学びを実現したい。

最後に山田ICPF理事長が法案成立に向けて議連の活躍を期待すると語り、セミナーは終了した。

セミナー「ユーザ中心のWebアクセシビリティをデザインする」

主催:特定非営利活動法人ウェブアクセシビリティ推進協会
共催:特定非営利活動法人情報通信政策フォーラム
日時:5月26日金曜日午後6時から
場所:エムワイ貸会議室四谷三丁目 会議室B

本記録を作成した山田肇が内容について責任を負う。

渡辺隆行東京女子大学現代教養学部教授が「ユーザ中心のWebアクセシビリティをデザインする」と題して講演した。講演資料はこちらにあります。要旨は次の通り。

  • Webアクセシビリティについて国際協調を進める国際・国内標準化に積極的に参加してきた。しかし現状を見ると、WCAG2.0を盲信しそれを技術的に実現するのに世の中はアップアップしているように思える。
  • 32人の視覚障害者がサイト閲覧についてユーザ試験し、1383の問題に遭遇したという論文がある。そのうち半分の問題しかWCAG2.0の技術基準はカバーしていなかったそうだ。解決のための次のステップはデザイン、すなわち生活における様々な問題を解決するための人工物の設計にある。ユーザ体験や人間中心のデザインに移行すべきである。Webアクセシビリティをコミュニケーションとして捉える広い視野が必要である。
  • 人間中心設計では、まずは利用状況を把握し、ユーザの要求事項を明確化し、解決案の作成し、設計された解決案がユーザの要求事項を満たすかを確認する。これを具体化した考え方がUXデザインである。Webアクセシビリティもコミュニケーションモデルの視点で考えるのがよい。
  • デザインのプロセスにアクセシビリティを自然に組みこもう、ユーザの視点を取り戻そう。そのためには、アクセシビリティ評価として専門家による評価だけでなく、ユーザによる評価(ユーザテスト。インタビュー、記録)が重要である。本物のユーザにデザインのプロセスに参加してもらうことにより、予想外の気づき・理解が生まれ、モチベーションが上がる。

講演の後、ユーザを中心にWebをデザインする具体的な方法や、公共機関等でのWebアクセシビリティ配慮の現状に関して活発な討論が行われた。

「デジタル社会における楽しい働き方」公開シンポジウム

主催:デジタルハリウッド大学・freee株式会社
共催:情報通信政策フォーラム(ICPF 

登壇者:
小林史明(衆議院議員/IT戦略特命委員会事務局次長)
佐々木大輔(freee株式会社代表取締役)
杉山知之(デジタルハリウッド大学・大学院学長)
山田肇(情報通信政策フォーラム理事長) ※モデレータ

開催日時:2017427日(木)19:00-21:00(受付開始18:30
開催場所:デジタルハリウッド大学大学院
101-0062 東京都千代田区神田駿河台4-6 御茶ノ水ソラシティ アカデミア3

以下の記録は作成した山田肇が責任を負います。

登壇者を含め総計97名と会場は満席となった。冒頭、佐々木大輔freee株式会社代表取締役が次のような講演を行った。

  • 日本の生産性は諸外国に比べて低いが特に中小企業の生産性は大きな課題である。freeeは中小企業の起業・運営・成長をサポートする。
  • 注目したのはバックオフィス業務であり、これを効率化することによって楽しく働く環境が整備される。バックオフィスを含め全部をクラウド化することで効率が上がる。
  • freee自体も小さな企業であるが「カルチャーに投資する」「1:1でとことん話し込む」「チームでミッションステートメントをつくる」などを掲げて、freeeの開発したバックオフィスシステムを活用して経営してきた。おかげで3年連続して働きがいのある会社ランキングに入賞できた。
  • freeeが目指すのはクラウド完結型社会である。行政など会社の外とのやりとりがクラウドで完結できないボトルネックである。 

次に、杉山知之デジタルハリウッド大学・大学院学長が講演した。

  • あるとき、21世紀になったらどのように仕事をするか考えた。結論は、力がある人はフリーランスになりプロジェクトベースで離合集散するハリウッドの姿だった。それがデジタルハリウッド大学(DHU)設立に結びついた。
  • デジタルハリウッドスタジオという事業を行っている。好きなことを、好きな時間に、好きな場所で、自分らしく働くをテーマとして掲げて女性の活躍を応援している。次世代主婦・ママデザイナー1万人育成が目標で、主婦・ママ専用スタジオを設立してきた。
  • スタジオはハイブリッド・ラーニングで進めている。オンライン講座を自分のペースで勉強したうえで、スタジオに集まり深掘りする。流行り言葉で言えば反転学習である。
  • 受講生の7割以上が学んだ成果を仕事に結びつけている。スタジオ出身の女性たちが組織した米子コンテンツ工場は女性の力で地域を活性化しようとしている。「一人ではできなくても、みんなだとできる気がする。」と彼女たちは言う。ハイブリッド・ラーニングで顔を合わせてきた成果である。卒業生ネットワークは重要である。 

その後、山田肇ICPF理事長をモデレータとしてパネル討論が実施された。小林史明自由民主党衆議院議員が以下のように口火を切った。

  • 20世紀は大量生産が中心の社会だったが、人口減少、グローバル化、IT化により、第二創業期に入っている。しかし、その成功モデルが作られていない。
  • ITを導入して働き方を変えていくときの課題の一つが人材評価である。

これに対して佐々木氏は次のように発言した。

  • 売上金額を並べれば評価が決まった時代は終わった。今日も社員人事評価について徹底的に議論してきた。定性的な評価が重要な時代と認識しており、話し合いの徹底が重要と考えている。 

また、小林氏は杉山氏の講演について次のように質問した。

  • 人生100年時代が来て80年の人生にもう20年が加わった。社会人から高齢者までモチベーションアップの場が必要になっている。大学はどのような役割を担うのか。

杉山氏は次のように回答した。

  • 現在の社会状況と高校までの教育がずれている。普通の大学は教養を学び、その後、専門科目を学ぶ。DHUは逆にしている。専門科目を深掘りしようとすると学生が教養不足に気付くので、後から補うのがよい。また、複雑な世の中に対応できるようにDHUは社会人教育からスタートした。

以後、多様なテーマで意見が交わされたが、発言者名は省略し概要を紹介する。

シニアへの教育機会の提供について

  • 起業家の年齢構成を中小企業白書で見ると60歳以上が32.4%を占めていることに気付く。シニアへの教育機会の提供は重要である。
  • 若者が今から大学で学習しても社会に出るのは早くても2020、第一線になるのは2030年である。即効性のあるのは社会人学生への教育である。
  • シニアが起業した小企業はfreeeのような企業にとって重要な顧客である。彼らはいろいろなことを勉強し、また、経理の数値をよくしようと実践を重ねている。タブレット、アプリを誰もが使える時代になりシニア層へのハードルが下がってきた。
  • 思いついきたときに学習できることが大事であり、MOOC(無料オンライン講座)も広まっている。しかし、オンライン学習には著作権の問題がある。
  • 著作権法の改正は政治の宿題である。行政手続も同様にデジタルを前提に変革する必要がある。官民データ基本法が議員立法された理由はここにある。

行政の電子化について

  • 起業するときは23種類の書類が必要という話があった。公証役場は本人の出頭を求めている。出頭すると本人確認にマイナンバーカードの提出を求める。それなら、最初から電子手続できるのに改善が進んでいない。
  • 印鑑主義と対面原則は課題である。印鑑を3Dプリンターに作られたらどうするのか聞くと誰も答えられない。全社員にマイナンバーカードを作ってもらいたいし、社員証にマイナンバーカードを使ってほしい。マイナンバーカードを普及させることは行政の電子化に役立つ。
  • 税金の納付・還付には多数の書類を使っている。マイナンバーカードの広範な活用は重要なステップである。個人の確定申告は電子的にできるが、法人ではまだ実現していない。これは国家的損失である。
  • これからはマイナンバーカードによる手続きを義務化しなければならないかもしれない。地方は圧倒的にデジタル化されてないが、これを突破するようにIT企業は地方の市場を取りに行ってほしい。
  • 印鑑証明書は紙に精緻に陰影を表現しているため3Dプリンターがあれば複製は誰でもできる。マイナンバーカードよりも印鑑証明書の方が危ない。

「柔軟な働き方」の必要性について

  • 働き方改革では残業時間を規制するが、どこかでルールをつくる必要があり、制限のなかで工夫していくのがよい。
  • 労働人口は減少し2050年には労働人口が5000万人を下回る。そのころには人の取り合いになるのだから、柔軟で働きがいのある環境を実現しておかなければならない。地方だけでなく東京もそうなっていく。
  • 個人事業主・中小企業だけでなく、副業もクラウド会計システムがあれば便利だ。副業を認めることは重要であり多様な人材の獲得にもつながる。
  • MITは教員に週4日間の労働を課している。他の1日は他のことをしても良い。企業の役員している人も多いが、これはアカデミアとビジネス双方にメリットがある。
  • 副業には法的なリスクも存在する。たとえば、だれが保険を負担するか。厚生労働省としてガイドラインを作る方向だが、デフォルトを副業可にして、禁止もできるようにするのがよい。

人工知能やロボットでの労働の代替について

  • 会計計算など月に一回人手で入力していたのが自動化されると、数字を見るようになる。目の前の作業から解放され、好奇心をもって数字を見て、自動的にクリエイティブになっていく。
  • 現在のAIは人間の脳のように万能型でない。アルファGoは囲碁に特化している。人工知能は特定業務では人間よりもパフォーマンスを発揮するが、AIに委ねて余裕の生まれた人間には、取り組める領域が拡大する。
  • 人口減少を機会としてとらえている。センサーやロボットなどは日本の強みである。もう一回、日本にチャンスが回ってきた。産業革命は人力からの解放であり、第四次産業革命は単純な情報処理からの解放である。チームをマネジメントするのは人間の仕事として残る。
  • 失業率が下がっていることによって雇用保険に余裕がでてきている。これをリカレント教育に使い、社会人を再教育してロボット時代に備えることが重要である。

会場から、若手は現場をみているが決定権は上の世代にあるというように、世代間のアンバランスが問題ではないかという質問があった。パネリストは次のように回答した。

  • 人は自分の意見が尊重される環境で働きたいと考えている。これが経営側のプレッシャーとならないような職場であれば人はやめていく。人材の流動化を起こしていく必要がある。
  • 一つに依存することによって交渉力が落ちる。依存から脱却は独立ではなく、「より多くへの依存」ではないか。
  • 全世界でみると人口の半分は30歳以下である。「Don’t believe over 30.」を掲げて自分たちで市場をつくっていけば良い。

わが国で労働生産性上げるというが、営業の生産性が低いのではないかという質問も出た。今までの慣行の改革についてパネリストは次のように意見を表明した。

  • 営業の仕事の問題点は、20%しか営業してない、残りの80%は移動に使っているということだ。ビデオ会議を使っての営業などを進める必要がある。
  • 経営が最終的に人工知能におきかわるかは、Noだと思う。経営は人工知能にはできない。経営はいろんな変数がありどれを重視するかでゴールが変わる。経営には感情・理念が大事になってくる。
  • 政府の役割はデジタル社会では小さくなっていく。地域らしいビジネスが重要で構造改革特区はそのためにあり、サンドボックスという提案がある。一つだけ規制緩和するのではなく、何でもやっていい特区をサンドボックスとして指定し挑戦するのがよい。
  • 世界とどう戦うかは世界基準で考えるべきである。

最後に、パネリストはそれぞれ次のようにまとめの発言を行った。

佐々木氏:労働の生産性はモチベーションによって変わる。事務作業を減らして楽しい仕事をできるようにfreeeの事業を進めていきたい。
小林氏:デジタルの社会を楽しい社会にしていきたい。マイナンバーカードで行政のデジタル化を進めていく。努力が見える化される、場所と時間にとらわれない、そんな社会が実現するようにしていきたい。
杉山氏:デジタルファーストにするために、やり残していることはたくさんある。一つずつ壁を壊していく必要がある。 

最後に山田氏が全体を次のようにまとめた。

デジタル化が進み、一人ひとりがそれぞれの価値観に応じて働き方を選択できる未来が展望できた。楽しい働き方は夢ではないが、そのためには、多くの規制改革や生涯教育の充実が求められる。クラウド完結型社会の実現のために取り組むべき課題が今日のシンポジウムで見えてきた。