カテゴリー別アーカイブ: 平成27年度

知的財産 デンソ-ウェーブの特許活用戦略

日時:3月31日(木曜日) 午後6時00分~8時00分
場所:東洋大学大手町サテライト
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
共同モデレータ:上條由紀子(金沢工業大学大学院工学研究科准教授、弁理士)
講師:原昌宏(株式会社デンソーウェーブ AUTO-ID事業部室長)

原氏の講演資料はこちらにあります。

冒頭、原氏は以下のように講演した。

  • デンソーウェーブはバーコードリーダーを開発した会社で、バーコード事業をはじめて今年で40年目である。事業全体では、小型ロボット事業が、一番のシェアを得ている。バーコード事業は、トヨタのカンバン方式でバーコードを利用するようになったのがきっかけである。カンバン方式は1950年代から行われてきたトヨタの生産方式であり、生産ラインの無駄を排除するものである。
  • 1970年代からコンピュータが使われ始めた。1980年に原氏が入社したが、アメリカではバーコードがスーパーマーケットのレジに導入されていることを知り、開発に携わることになる。ちなみに、日本では、POSで使用する為にセブンイレブンで初めてバーコードが導入された。
  • 1990年代のバブル崩壊後QRコードを開発した。行動経済成長時代は大量に生産した安いものが市場で受け入れられていたが、バブル崩壊によって細分化していった。製品数が増えたことにより従来のバーコードに限界がきた。また、日本は高品質を求める企業が多いため、部品等でもバーコードを使うようになった。そして、高度情報化時代のニーズに対応できる、読みとりやすいコードが求められるようになった。
  • QRコードは縦と横の二元的に情報を持つことができる。バーコードの誤読率は100万分の1以下であるが、QRコードはさらにそれよりも少ない10-16以下である。バーコード以上の読み取りができたこと、社会ニーズに対応したことで、QRコードが普及した。ICカードの普及によって、QRコードは一時的と言われていたが、現在までに20年間使われ続けている。情報をいかに早く正確に読み取るかが難しいところであったが、使われる様々なシチュエーションを考えて、汚れや破損があっても読み取りが可能になるようにした。
  • QRコードが普及した2000年頃、東南アジアの言語を使えるようにした。2005年以降には、スマートフォンで使用可能にした。例えば、会員登録時にQRコードを用いたりする。また、クーポンや電子チケットとして利用する。2003年にカメラの画素数が100万を超えたことで、読み取りが行いやすくなり、さらに普及した。SQRCとは、QRコードの一部のデータを非公開にする技術である。一部を非公開にすることで読み取り制限を行える。フレームQRはデザイン重視のコードである。
  • 特許を取得することでQRの模造品を排除し、同時に、他者の特許の侵害可能性を排除している。国際標準にするために実績作りが必要だったので、グローバルな業界で、欧米日といろいろなところで使ってもらい、ISOに提案した。それから各国での国家規格にしていった。現在は、世界各国で商標登録もされている。一方で、普及を早めるために、生成ソフトを無償配布したり、読み取りや印字のノウハウを開示したりした。
  • 海外ではICカードのリーダーが高価であること、スキミング等の悪用があることから、決済にQRコードが使われている所もある。国内でも、切符等の磁気カードを置き換えている。デンソーウェーブには現在約30種類の製品がある。最近は、クラウドサービスとの連携や、お米のトレーサビリティにも使われている。今後は印刷技術との連携をして強固なセキュリティ性を実現することが目標である。

講演後、以下のような質疑があった。

競合技術と市場性について
質問(Q):マイナンバーカードの配布が始まっているが、これはパソコンにICカードリーダを接続することで情報を読み込む。ICカードリーダをスマホやタブレットに接続するのはナンセンスである。パソコンからスマホへ移行している市場動向を考えると、マイナンバーカードでもQRコードを用いるべきではないか?
回答(A):認証技術や偽造防止が進んでくれば可能性はあると思う。また、より情報量を増やしていきたい。例えば、カラー化など。
Q:10年前には、RFIDのほうがQRコードより優勢という予想があったが?
A:RFIDタグの値段が下がらないから、QRコードの方が主体になった。また、ネットワークが想定よりも発達した。時代によって、シチュエーションが変わってくる。
Q:搭乗時のQRコードは暗号化されているのか?
A:搭乗するためのコードであり、予解約は行わない。搭乗名簿と紐づけるための情報である。
Q:バーコードのビジネスとの連続性を意識されたか?
A:あまり意識していない。バーコードで出来ない事をQRコードで実施する事を考えていた。光学的な装置として試作し、社内で試しに利用したところ評判がよかったので、製品化した。その際、OCRの知識を活用した。ボルトとナットのような部品には、レーザーマーキング技術で部品にQRコードをマーキングしている。
Q:今後QRコードがどのように発展していくか?アプリケーション、セキュリティ、トレーサビリティ、ビッグデータ、デザインといったことをお話していただいたが、他者とコラボレーションしながら稼げるところは稼ぐといったビジネスを考えられていると思うが、将来的にはどうお考えか?
A:いちばんは囲い込みで、一緒にやってくれる人を囲い込んで色々な物を一緒にチャレンジしQRコード市場を拡大していく。昔はトヨタグループ中心でやっていたが、今は外からの人材が重要である。

知的財産戦略について
Q:知財戦略の観点で、特許は期限がいつか切れるが、現在は商標で対応されている。特許以外の部分で、どのような戦略をお持ちか?
A:元々、QRコードを使ったのは車の生産工程である。携帯電話を扱うことによって、一般市民が使うようになり商標登録を意識するようになった。
Q:生成のソフトを無償にしたりしつつ、登録商標をするといったメリハリがあったと思うが?
A:プリンタ技術はある程度成熟している。そのため、生成に関する技術をオープンにすることで、我々のQRコードを使ってもらうという考えから無償配布した。いかに、人に使ってもらうかが重要であった。
Q:国際標準にするには、少なくとも5か国の支持がなければならないといった決まりがあるが、QRコードを国際標準にするにあたり、スムーズにいったか?
A:業界標準という意識があったので、スムーズにできたと考えている。自動車、文具協会などの業界がまず使用して実績を出し、そのサポートで国際標準を取ったわけだ。
Q:オープン/クローズ戦略で特許を囲い込んでいるというが、具体的に、どのようなライセンスか?また、標準必須特許は取らずに、活用の特許を押さえるのが主流になっていると聞くが御社はどうか?
A:あまり進歩がない技術はライセンス、伸びしろがある技術はクローズにする。伸びしろがあるものは、他者に改良特許を取られないようにするためである。技術の目利き力が永遠の課題である。我々はものづくり企業であるので、製品で勝負するしかなく、市場も独占よりも活性化が重要である。
Q:単純なQRコードを自由に使わせて、暗号付きQRコードはクローズにするというイメージか?
A:そういうイメージである。
Q:関連ビジネスの世界市場規模はどれくらい?
A:1000億円くらいの規模であり、その中で当社は1割くらい。独占にしたときとオープンにしたときとどちらがいいかと聞かれることがあるが、そのときによって異なると思う。独占にすることで普及や進化をしないこともある。
Q:QRコードをなぜ商標化するのか?
A:QRコードという商標でまがい物のQRコードから市場を保護したい。ただ、韓国では一般名称化されているという理由で、商標権の登録ができなかった。

知的財産 シンポジウム 競争政策と知的財産権

総務省・経済産業省・公益財団法人情報通信学会後援

月日:2月29日(月曜日)
会場:アルカディア市ヶ谷(私学会館)
共同モデレータ:
山田 肇(東洋大学)
上條由紀子(金沢工業大学大学院工学研究科准教授、弁理士)
講師:
山田 肇(東洋大学)
谷田部智之(株式会社三菱総合研究所)
福岡則子(パナソニックIPマネジメント株式会社)
藤野仁三(東京理科大学)

シンポジウムでは四つの講演が行われた。

山田氏は、「標準化団体の特許ポリシー」と題して講演した。市場の将来動向が見えやすい情報通信分野では各社の研究開発は重複するため、一社で関連特許をすべて保有するのは不可能である。また、相互接続・相互運用を実現するために標準化活動という形で「技術の共通化」が活発に行われている。標準化に特許権が関係する場合には、公正で合理的な条件で非排他的に実施許諾すること(FRAND)になっている。この特許ポリシーは業界が自発的に定めてきたものであるが、近年、競争の視点から、競争政策当局が介入するようになってきた(山田氏の講演資料はこちらにあります)。

谷田部氏は、「特許庁:知的財産制度と競争政策の関係の在り方に関する調査研究より」と題して講演した。公正取引委員会が「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針(ガイドライン)」の改正を検討していた時期に、特許庁と経済産業省合同の体制で実施した調査を受託し、文献調査・ヒアリング・アンケート調査を行った。標準の実施に不可欠な特許(SEP)のライセンスに関して、「抱き合わせライセンス」「支配的地位に濫用」「私的独占」「不公正な取引方法」「不争義務」の問題を、各国・各地域で競争当局が取り上げている現状を明らかにした。日本企業約1000社に対するアンケート調査では、多くの企業は事業の自由度の確保のために知的財産を活用しているという回答したが、一方で、SEPを他社にライセンスしているあるいはライセンスを受けている企業はわずか47社にとどまった(谷田部氏の講演資料はこちらにあります)。

次に公正取引委員会のガイドラインについて、二つの講演が行われた。

福岡氏は「標準規格と知的財産権と競争政策」と題して講演した。標準化には技術開発の効率化・迅速な市場形成と拡大などの企業側へのメリットと、ユーザの利便性向上というメリットがある。一方、標準の一部だけに準拠した粗悪品が流通したり、価格競争の陥りやすいというデメリットがある。しかし、相互接続・相互運用のためには、情報通信産業では標準化は不可避である。標準必須特許に関しては、1980年代以降のプロパテント時代に標準化必須特許の累積ロイヤリティ問題を解決するためパテントプールがMPEG2ビデオ規格について提案された。その後多くの標準規格でパテントプールが形成されたが、警告を重ねても使用料を払わないただ乗り企業(ホールドアウト)が存在するのが実態である。最近、FRAND宣言をしたSEPについて訴訟合戦が起きているが、これはスマートフォンの市場競争を有利にするために、訴訟に走っていると見るべきで、ホールドアウトに対して差止請求を制限するのは適切ではない。実際、標準化団体の議論でも、実施者側は差止請求を禁止すべきだと主張しているが、標準化技術を提案する権利者側は、事情に応じて差止請求する権利を残すべきと主張している。知的財産の活用を通じて研究開発投資を回収し事業活動を継続するためには、侵害製品を排除し、ライセンスを取得させる適切な権利が必須である(福岡氏の講演資料はこちらにあります)。

藤野氏は、「研究者の立場から」と題して講演した。競争法は知的財産権の権利行使には適用されないことになっているが、正当な権利行使は何かについては競争法に詳しく規定されていない。競争法が適用される市場には3つの類型がある。「商品市場」「特許市場」「技術市場」である。競争法が最も頻繫に適用されるのが商品市場である。商品市場の上流に特許市場があり、さらにその上流に技術市場がある。技術市場については、競争法は共同研究開発契約だけが規制されていると考えてよい。特許市場については、近年、競争法で規制する行為類型が生じてきつつあり、公正取引委員会のガイドラインや判例でそれを規程している。FRAND宣言した特許権者がSEP侵害を理由に差止訴訟を起こすことは競争法違反という、権利者には厳しい判断が重なってきたが、その後、実施者にも誠実に交渉する義務を負わせて、権利者と実施者のバランスを取る方向に変わってきた。ガイドラインは、このような世界的な傾向に足並をそろえるものである(藤野氏の講演資料はこちらにあります)。

その後、二つのテーマについて総合討論が実施された。

ガイドラインに対する評価
谷田部:権利者に厳しい判決が多かった中で、権利者にある程度の権利を認めるガイドラインが公表されたことは評価できる。公正取引委員会の方針に理解を得るためには、もっと具体的に、例示を含めて、書いてもよかったかもしれない。
福岡:改定案が出てきたときは「これは問題だ!」という感じだった。実施者だけに配慮し、「ライセンスを受ける意思表示」の定義が曖昧だった。関係者とともに、公正取引委員会に懸念を伝えた結果、今の権利者と実施者のバランスを考えたガイドラインが出た。個別事案の状況を考慮して判断することが明確となり、状況変化に対応できるバランスの取れた内容となった。
藤野:原案は問題ありすぎであったが、成案は、世界から見ても受け入れられる範囲に修正され、欧米との足並みも揃った。アップル対サムスン事件でインパクトのある判決がでて、公正取引委員会に対応が求められていたが、それに応えたガイドラインとなった。
山田:特許を集めて実施料の支払いを「脅迫する」特許トロールに対する対策としては、ガイドラインは評価できる。日本企業も業績悪化をきっかけに、特許をトロールに売却するケースがあり、どうすればトロールに対抗できるかを明示したことはよかった。
福岡:企業が事業変革をする過程で、保有する特許権と事業内容にミスマッチが生じる。その際に、特許権を放棄するという対策もあるが、さらに、流通に回すという対応もある。特許にも流通資産としての価値があり、日本企業もその価値を認識する必要がある。売却先がどう活用するかはコントロールできない。原理原則から言えば、差し止め請求に用いられたとしても、正当な権利行使である。
会場:ガイドラインに、あえて価値を見いだすとすれば何があるか?
福岡:対象をFRAND宣言したSEPに限定し、権利者と実施者双方のバランスを取るという基準を示し、個々の事案の状況を考慮して判断するとしたことが大きい。
藤野:日本の独禁法には「特許濫用」の概念がない。ガイドラインは濫用の例示をしたとも言える。

権利者の立場に立つ日本企業はどう動くべきか
山田:知財立国を標榜するわが国では、権利者としての企業がより重要である。谷田部氏の調査ではわずか6%しかいなかったようだが、その割合を増やす必要がある。
谷田部:日本企業間では、クロスライセンスが中心になり、相手も道義的に行動するだろう」と考えられる。これからは、海外向けに、権利者としての権利行使をする意志があることをもっと強くうちだす必要がある。
山田:福岡氏は講演の中でSEP侵害が明確でも実施料を支払わない企業があると言っていたが、本当に支払わないのか?
福岡:そう。いろいろな理由をつけてライセンスを取得しない。商品を輸入すると侵害になるので、輸入業者に警告を出すが、生産者は結局逃げてしまう。
会場:東南アジアの企業は払わないで、踏み倒す。訴えられても、金額が確定したら会社をつぶして、また立ち上げる。標準に関わる特許が増えているので、1件あたりの収入も減って、特許の維持費も出せない場合もある。
上條:必須ではない特許が、宣言された「必須特許」の中に混ざっているために、「必須特許」についての侵害特定が難しくなることはないか?
山田:特定は大変な作業で、世界中の特許も調べないと本当の意味での必須特許はわからない。今は、標準を決める場に大企業が持ち寄ったものをSEPと呼んでいる。本当の意味での「必須特許」とSEPは似て非なるものである。
福岡:プールを形成する際には、必須性を評価している。このように、特許の評価に第三者の目が入る場合もあるが、基本は当事者が判断しなければならない。
会場:特許権を企業としてどう活用すべきなのか?
谷田部:LSIにして権利をブラックボックスして販売したり、認証制度を設けて認証されていない商品は流通させない、という方法もある。日本企業が得意な垂直統合型ビジネスは、今後受け入れられなくなる。そのような中で、どう利益を得るかは、事業戦略による。知的財産だけでは、どうにもならない。
藤野:アップルはグレーゾーンをうまく使っている。アップルが依存しているのはソフトウェア特許なので、それを使って仕掛けている。「知財で儲ける」ということを考えるとグレーゾーンで争うしかない。確立した法解釈の下での権利行使だけでは戦えない。
山田:トヨタが水素電気自動車の特許を全公開したので、「公開しないと水素ステーションが広まらないためか」と質問したら、「それが目的ではない。水素社会をつくることが目的」と言われた。トヨタのような長期的な視点での戦略判断も重要である。
福岡:今後は著作権も重要になる。「モノの標準化」から「ルールの標準化」に変わっていく。ルールを実効性あるものにするためにも、著作権、デザインやロゴ等の知的財産権でルールを守らせる執行力を考えていくことも必要になる。ベースとして事業戦略があって、ツールとして知的財産権がある。
上條;そういった意味では、特許権だけでなく、意匠権、商標権、著作権などを活用した知財ミックスによる戦略が重要である。また、企業で創出された「知」についてオープン・クローズ戦略を検討し、一部については営業秘密・ノウハウとしてクローズドに管理することも重要である。
会場:標準化活動から離脱して、勝手に技術規格を市場に出せばよいのではないか?
山田:デファクトをとるという方法はある。しかし、独占するために優越的地位を使うのであれば独占禁止違反に問われる。

まとめとして、講演者が次のように発言した。

谷田部:SEPだからといっても特許ライセンスで稼ぐという戦略は難しいので、事業戦略上どうやって儲けるのかという点が重要である。産業の動向を考えれば、これからはソフトで稼ぐ企業に頑張って欲しい。マスコミが「標準を取れば万々歳」と言うのは、やめるべき。儲からない標準は意味が無い。
福岡:標準化団体には権利者と実施者の立場があるが、新たな技術標準を作成していくという観点から実施者だけでなく技術提案者・権利者のことも考えないといけない。ガイドラインは、そのバランスを求めている。標準化団体としてはコンセプチュアルな精神を決め、市場状況の変化に対応できるIPRポリシーにするのが標準化団体として行え得る限界ではないか。
藤野:米国の特許訴訟の大部分がトロールによるものであると言われている。米国の裁判所ではそれを意識した判決を出し始めている。日本のガイドラインが対トロールの域をでていないとすれば、日本の競争政策はかなり遅れている。アメリカは今年あたりに新しい判決が出るであろう。日本も考えていかなければいけない。

知的財産 NTTドコモの特許活用戦略

日時:2月4日(木曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学大手町サテライト(新大手町ビル1階)
東京都千代田区大手町2-2-1
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
共同モデレータ:上條由紀子(金沢工業大学大学院工学研究科准教授、弁理士)
講師:小師 隆(株式会社NTTドコモ知的財産部長)

小師氏の講演資料はこちらにあります。

冒頭、小師氏は講演資料を用いて概略次のように講演した。

  • ドコモは携帯電話オペレータのイメージが強いが、2011年からコンテンツなどスマートライフ領域のビジネスを戦略的に強化してきた。また通信事業では昨年から光ブロードバンドサービスを提供し、NTTグループ内でBtoCのサービスをワンストップでカバーできるようになってきた。
  • こうした中、去年の4月に2017年度に向けての新たな中期計画を発表した。具体的には、通信サービスの強化、スマートライフサービスの拡大、コスト効率化が三本柱となっている。本計画の技術的な裏付けとなっているのがドコモのR&D。ドコモ規模の研究開発組織を持っているオペレータは世界的に少ないが、そうした中、ドコモのR&Dは無線ネットワーク技術等で世界を牽引できる成果を生み出してきている。
  • ドコモが取得している特許のうち、無線ネットワーク系は国内特許の41%、外国特許の60%である。知的財産部としては、①知財の収益化を拡大、②差異化サービスの防衛強化、③量から質への特許管理の徹底、を重点課題と掲げて、会社の中期目標達成へ貢献すべく努力している。
  • 携帯電話は最近30年で成長したサービス。この間、技術的には4回の革新が行われている。技術革新が進むにつれて、各国バラバラの技術が国際標準に統一されていった。ドコモは世界で使えるものをということで早くからW-CDMA方式を提案し、結果的に本方式は第三世代で最も世界に普及した。そして第四世代(LTE)では世界の統一仕様ができた。
  • 標準規格必須特許(SEP)についてみると、通信事業が国営で営まれていた第一世代では無償ライセンスが基本であった。それが第二世代のGSMでは、当初必須特許を有する少数企業間のクロスライセンスで市場の寡占化が起きた。こうした反省からETSIの特許規則でFRANDでのライセンスが義務付けられた。第三世代では有力企業による有償ライセンスが拡大したが、最近は特許で稼ぎ過ぎることについて疑問が呈され揺り戻しが起きている。
  • 携帯電話では標準規格が公開されているので、SEPのライセンスを全部受けなくても規格に従えば実施者は機器が製造・販売でき、こうした運用がかなり常態化している。こうした事情もあって2009年頃からSEP保有企業が訴訟を起こすようになり、所謂スマホ訴訟が頻発するようになった。
  • こうした様々な訴訟の中でSEPの実施者と権利者のバランスをどう取るかが議論されてきたが、各国当局はかなり実施者寄りの判断を示すようになり、全体的にSEPの権利行使が制限されるようになっている。
  • ドコモはグローバル標準の作成をリードしてきた立場から、今の特許宣言とライセンスの仕組みを根こそぎ引っくり返すのではなく、現状を出発点に問題点を段階的に改善していくべきと考えている。その意味で、昨年、欧州司法裁判所が示した判断等は両者のバランスの再構築に向けて有意義なものと考えている。
  • ドコモは、オペレータとしてSEPの実施者であると同時にR&DによってSEPを生み出す権利者でもある。権利者としてはR&Dに対する適正なリターンが必須と考えており、パテントプールや個別ライセンス活動などSEPの活用に力を入れてきている。また、実施者としては、ライセンスのクリアリングを機器調達の必須条件としており、メーカを通じて権利者にも経済的利益が還元されるようにしている。
  • 現在の課題は、権利者の視点からはパテントプールが十分に機能しておらず個別ライセンスも交渉が難航しがちなこと、そして実施者の視点からはパテントトロールへの対応などに多大なリソースが必要になっていることである。
  • 次世代の通信標準(5G)の策定がこれから本格化するが、権利者・実施者のバランスを考慮しながら、効率的な知財エコシステムが構築できるよう、業界関係者全員が開かれた議論を通じて協力していくことが必要と考えている。

講演後、以下のようなテーマで質疑があった。

SEPをめぐる争いの解決について
Q(質問):MGMNはSEPの評価を第三者が行うと提案しているが、中立的な第三者は誰で、だれが費用負担するのか?
A(回答):第三者評価は現在も実施しており、パテントプール等でも活用している。費用については受益者負担が良いのではないかと考えているが、議論の余地は大きい。
Q:パテントプールの実効性は確保できるのか?
A:難しい課題。個人的には、SEP保有企業が分散化されてきているため、5Gではパテントプールが再評価される可能性もあると考えている。
Q:MGMNは業界の賛同を得ているのか?
A:MGMNはオペレ-タの団体であり、その中の議論の結果として先の提言をしたが、ベンダーには異なる意見を持った会社も多い。しかし、提言の1番目、宣言プロセスの改善については問題意識を持っている企業も多く、方向性として合意できるかもしれないと期待している。
Q:SEPでは標準における仕様の定義文がそのまま特許になっているのか?
A:特許明細書の文言と標準の仕様定義文の文言が一致しているほど強い権利となる。
Q:各国バラバラから世界統一に移りつつあるという話だったが、インターネットのように権利は行使しない方向には向かえないのか?
A:移動通信は数兆円規模の投資と長期間に渡る維持管理が必要となり、また世界中で相互接続を保証することが必要。そうした環境の中で今のエコシステムが構築されてきている。インターネットのようにいくつの標準が競いながら、有力なものが勝ち残っていく方式にいきなり置き換えるのはなかなか難しいのではないか。

会社を取り巻く状況について
Q:有価証券報告書に特許のライセンス収入を記載しているか?
A:記載していない。
Q:ドコモはR&Dをやっているけれど、それをやめて、利益を株主に還元してくださいと言われたらどうするか?
A:様々な意見があると思うが、個人的にはメーカ任せではなく、技術の方向性を自社でコントロールできるのがメリット。ネットワークで世界に先駆ける技術力を持つことがドコモの競争力となっており、R&Dの価値であると思う。

ドコモ社内の体制について
Q:サービス面ではIoTが目の前に待っており、第五世代はIoTのインフラになるだろう。これに対しての戦略が今日の講演からは見えない。オープンにするところとクローズにするところを決めておかなければならないはずだ。
A:課題は認識している。ただ通信分野は相互運用などの必要上、SEPを含めて基本的にオープンになるところが多い。一方でアプリケーション領域では差別化できる領域を絞って戦略的にクローズにすることも検討していかなければならないと考えている。
Q:SEPは収益性が下がってきているという説明だった。周辺をやった方が儲かる場合もあるということを聞いた。それでもSEPを取り続けるメリットは何か?
A:知財はR&Dの副産物。第五世代に向けたR&Dの中心は、やはりSEPに採用される標準技術であり、その標準は自分たちで作っていくのだということがR&Dのモチベーションにもつながっていると思う。そのうえで、知財面からはSEPと非SEPのポートフォリオで活用していきたいと考えている。
Q:コンテンツサービスでも特許紛争に備えているのか?
A:サービスの企画段階で必ず特許調査を行い、危ないものに関しては対策を取るようにしている。その中で必要となればライセンス契約するものもある。
Q:キヤノンは、知財と研究開発部隊が蜜に連携を取りながら合同で事業を進めて行くと強調していた。ドコモ社内ではどうか?
A:連携をしながら進めていくという点は同じ。ただし関わり方はR&Dと事業部とは違う。前者は、技術的に深いためアイデアそのものを知財が提案することは難しい。一方で、サービス開発では仕様書などをベースに知財側で提案できる部分もある。そうした意味でアイデア出しに一緒に取り組むことも多い。