政治 情報通信政策の課題

概要

 情報通信政策フォーラム(ICPF)では、第22回セミナー(07年10月開催)から3回連続して、通信・放送の総合的な法体系について議論を重ねてきました。それを集大成するとともに、情報通信政策をめぐる最近の重要な問題について考えていくために、第6回シンポジウム「情報通信政策の課題」を開催致します。

<日時> 3月13日(木)14:30~17:00
<場所> 東洋大学・白山校舎・2号館16階 スカイホール
東京都文京区白山5-28-20
キャンパスマップ
<協賛> IEEE Technology Management Council Japan Chapter

<スケジュール>
14:30 開会
山田 肇(ICPF事務局長・東洋大学教授)
14:35 講演 「通信・放送融合のための法制度の行方」
中村伊知哉(慶應義塾大学教授)
15:25 休憩
15:35 講演 「電波ビッグバンの提案」
池田信夫(ICPF代表・上武大学教授)
16:15 講演 「情報セキュリティという視点でみた情報通信分野の幾つかの話題」
林紘一郎(NPO ICPF理事長・情報セキュリティ大学院大学副学長)
16:55 閉会

<入場料> 2000円

映像レポート

 

レポート

第6回ICPFシンポジウム「NPO ICPF発足記念 情報通信政策の課題」講演要旨
<協賛> IEEE Technology Management Council Japan Chapter

中村伊知哉(慶應義塾大学教授)講演 「通信・放送融合のための法制度の行方」

二年前にコンテンツ政策研究会を組織し、議論を続けてきた。融合とか連携とか言っても縦割りでは無理だということが、その中で明らかになってきた。
情報通信産業では、20年くらい前まではアメリカ東海岸が本場。その後、西海岸へ。21世紀は日本がチャンスと信じている。それは技術が研究室から企業に移り、さらにユーザに主導権が移ってきたから。日本のティーンエイジャーが携帯電話で読み書きしていることに2000年ごろに驚いたが、キャリアなどの戦略でそうなったというよりは、日本の若い利用層がそれを望んでいたと考えたほうがよい。このように日本にはユーザの文化がある。
この10年の間に、情報通信機器が発展し、そのインフラが整備されて2010年にブロードバンドの全国化、地デジが2011年に完成する。その先はコンテンツの流通だ。
コンテンツといっても、政府がいっているのは14兆円のエンターテイメント市場。パーソナルな、アマなコンテンツは通信16兆円市場を形成している。そこに融合の可能性がある。お役所が融合に反対から賛成に変わるのに12年間かかったが、市場においても実体を伴うようになってきた。
こんなに光ファイバーが普及し、携帯ネットワークが普及し、テレビが楽しまれている。なのに、両者をドッキングさせることに日本は出遅れた。それは縦割りの壁があるからだ。
アメリカでは主導権がAT&T、ワーナーからネット系企業に渡った。CBSはブロードキャスターでなく、コンテンツキャスターになった。BBCはYouTubeの上にチャンネルを作っているし、フランスではフランステレビジョン、フランステレコムが組んでIPTVを実現。NTTとNHKが組むようなもの。
フランスのINA(国立視聴覚研究所)では、権利処理が終わった10万作品を一挙ネット配信し始めている。インターネット全盛になる前から、INAはネットワークが世界に繋がる世の中を想定し、フランスの映像資産を世界に示す、と技術研究を進めてきた。
2006年、竹中前総務大臣の指示から日本でも議論が強まった。そのとき私が使ったペーパーがこれ。通信と放送では勝手が違う。規制も違う。180度違う仕組みをどうするのか。電波の問題、NHKの問題、タブーがたくさんある。委員のメンバーがそのタブーに切り込むことによって、ようやく本番が始まったと思う。
ややこしい規制をレイヤー別に大改正をして、つまり今の法律を一度廃止しして、新た敷く法律を作るというのが、通信放送の総合的な法体系だ。それにより、外国でできているのに日本でなぜかできないサービスを実現させる。縦割りをやめ、9本の法律をいったん廃止し、一本の情報通信法をつくる。規制は緩和する。
よく研究会報告がまとまったと思う。だがコンテンツの部分には批判がある。メディア別の区分でなくコンテンツで区分ということになったので社会的な影響力で区分する事に対する批判、公衆的な、ネットのコンテンツに対して規制がかかる可能性への批判、産業活性化でなく、これまで培ってきた放送文化の破壊ではないかという批判。
基本的には、心配しすぎではないかなと思う。社会的影響力という点、行政の判断で規制できてしまうのではないか、となるかもしれないということに対する危惧だと思うが、私は今とそう変わらないのではないかと感じている。CATVだって地域独占性があるから、という話はフィクションになっている。法体系がそうなったとしてもそう変わらないのではないか。
公権力のネットへの介入も無理と思う。あまり、おかしな方向へいくとは考えない。
放送文化の破壊という主張の意味がよくわからない。破壊でなく相乗するものと考えるが。放送文化というのなら、一体今、放送がどのような新しい文化を生んでいるか?
コンテンツの規制は、放送に関してみても、日本は世界的にもすでに緩いはず。その議論で改革が停滞してしまうと、本丸のやるべきことができなくなる。
放送業界はレイヤー化に対しては反対、通信もソフトバンク・KDDIは賛成の立場をとっているがNTTは明確なスタンスを決めてはいない。経団連もレポートをまとめており、もっと過激な緩和案を提案している。総務省でなく独立の規制官庁で改革を進めるべきなどと書いてあるが、そういう意見が出てくることはいいことだと思う。
今の制度のままで、今の状況・制度のままで放送はハッピーになれるのか? ハードソフト分離・集中排除原則などもあるなかで、このままではますます悪くなっていくのではないかと感じる。

池田信夫(ICPF代表・上武大学教授)講演 「電波ビッグバンの提案」

アナログ放送が終わる。これは非常に大きなチャンスだと思う。ソフトバンクモバイルが返上した1.7GHz、IPモバイルが倒産してあいた2GHzなどを含め数百MHzある。これらの価値は数千億円の価値があるだろうし、効率的に配分できればよい。
しかしその大前提が大丈夫なのか? 本当に2011年に空くのか?テレビの買い換え需要からみて、6000万台くらいのアナログテレビが残ったまま? ヨーロッパでさえ、フィンランドなどの小国でしか停波していない。3年延長するとなれば、電波法を改正しなくてはならなくなる。今の国会情勢の中で民主党がどう動くか? そもそも2011年にあくという前提が成り立ちにくい。
ガードバンドの問題。関東での5チャンネルとか。あのガードバンドは今の技術では必要なく、今だったら別の用途に使える。空くのを待っていなくても、隙間的にスタートできるサービスがあるはず。地域無線は必要か? 地域防災無線は帯域・用途・技術を三位一体で割り当てる制度は昔のやりかたであって、今後はもっと緩くていいのでは?
ISDB-Tについて「パラダイス鎖国」技術を採用することへの疑問。PDCとGSMの採用を巡っての、携帯電話市場もまったく同じ構図だった。その結果、今現在端末メーカーだって、三菱も撤退、DoCoMoからソニーも撤退といっている。日の丸技術でやれば、最初からノキアの何分の一の市場で何社もの企業が勝負しなくてはならなくなる。
また、電波は国民のものであってテレビ局のものではないのだ。
デジタルテレビの周波数自体にも疑問がある。放送局の数を考えれば、6MHzが7つの42MHzでいいはずで、中継用に240MHzも使っていることは無駄だろう。SFN(シングルフリークエンシーネットワーク)ができるはずだったのに、MFNという従来型の、200MHzもの周波数を消費する仕組みが利用されている。効率化を図ればまだまだあけられる周波数があるはず。
特定の用途と特定の技術に電波を割り当てるという考え方を変えて、下の技術は何でもいい、上のサービスは何やってもいい、という仕組みにして、「電波の市場」をつくったらいいのではないか。
FCCが2002年に電波ビッグバンのオークションを推奨する論文を提案した。さすがにそれは何が起こるかわからないので危ないからやめようということになったが。
百歩譲っても、遊休になっている周波数であれば、それらを一度にビューティーコンテストで業者を選んではどうだろうか。
ISDB-Tなど特定の技術を政府が決めるのは、やめるべき。日本のWiMAXと次世代PHSなどだって、政府が決めた方針に従い、その先事業者がぼろぼろになったとしても用途を変えられない。イノベーションによって新しい業者が入ってきて、新しい実験をやってみて、失敗も含めて挑戦することが大切である。先に技術と用途を決めて政府が社会主義的に配分する仕組みはいかがなものかと思う。

林紘一郎(NPO ICPF理事長・情報セキュリティ大学院大学副学長)講演 「情報セキュリティという視点でみた情報通信分野の幾つかの話題」

法人化してから当フォーラムが何をしたらよいか、私の専門の情報セキュリティという視点から、いくつか考えてみた。① ISPのフィルタリングなどと通信の秘密、② 現在検討中の通信・放送融合法と言論の自由、③ 情報の流通と著作権のあり方、④ マスメディアの集中排除原則と言論の多様性、などの課題が浮かんだ。
まず、通信の秘密について。電気通信事業法4条、同法179条の規定は、公衆電気通信法を引き継いでいるが、さらにさかのぼると郵便法に行き着く。歴史を調べる過程で、「通信の秘密」と「他人の秘密」を、分けて扱ってこなかったという問題が見つかった。NTTが事業者の社内通達として同義説を採ったからだ。郵便の場合、配達人は宛先をみないと仕事ができないが、封書の中身をみれば通信の秘密の侵害になる。歴史は皮肉でパケット通信は再び両者を区別しうることになったように思う。改めて、通信の秘密について議論して、ISPによるフィルタリングなどをその視点で見直すべきではないか。
通信・放送融合法と有害情報に話を移す。融合領域で一番センシティブな問題は、コンテンツ規制である。違法情報は取り締まるのが当然だが、有害情報とはなにか? アメリカには、言論の自由、憲法修正一条を第一義に戦う団体がある。日本では「有害情報を取り締まるときに誰に期待するか」と聞けば、だれもが「政府」と答える。しかし政府が間違った判断をとったとすればどうなるだろうか。言論の自由を第一義に戦う団体が無い現状はいかがなものかと思う。
著作権問題の鍵は、権利の保護に重きを置きすぎて、著作物の利用や流通を重視してこなかったことだろう。ベルヌ条約の無方式主義も、緩やかな登録主義に切り替えた方がいいのではないか。知的財産は、特許に代表されるように方式主義が多い中で、無方式主義は著作権とパブリシティ権くらいである。デジタルなら、個別管理は可能なはずであり、逆転の発想があっていいのではないか? このアイディアは「著作権保護期間の延長を考えるフォーラム」やデジタルコンテンツ協会などで提起し、賛同を得つつある。
メディアの集中と多様性。Eli Noamが2004年8月に書いた論文で「メディアの集中排除原則というけれど、集中度をはかる客観的尺度はない。それを工夫すべき」と主張した。彼はアメリカの研究を終わり、世界規模に拡大した研究を始めようとしている。私にもお誘いがあったが、ICPFのメンバーを中心にグループで協力しようかと考えている。なお、データが使えるかどうかが決め手になるので、電通の『情報メディア白書』のデータ収集で実績がある、メディア開発綜研の協力を得たいと思っている。