電波 ワイヤレス・ブロードバンドをめぐる政策とビジネス

概要

携帯電話に3社が参入し、話題のWiMAXにも周波数を割り当てる方針が打ち出されるなど、電波の世界が大きく動いています。総務省の「ワイヤレス・ブロードバンド推進研究会」では、こうした問題を含めて様々な議論が行なわれました。このセミナーでは、研究会のメンバーである中村さんと、今回2.0GHz帯で携帯電話に参入する意向を表明したアイピーモバイルの竹内さんをお招きし、無線ブロードバンドの今後について考えます。

スピーカー:中村秀治(三菱総合研究所 次世代社会基盤研究グループ・リーダー)
竹内一斉(アイピーモバイル取締役)
モデレーター:真野浩(ルート株式会社 社長)

日時:11月25日(金)19:00~21:00
場所:東洋大学白山キャンパス 3号館3204教室(いつもと部屋が違います)
東京都文京区白山5-28-20
地下鉄三田線「白山」駅から徒歩5分
地下鉄南北線「本駒込」駅から徒歩5分
入場料:2000円

レポート

要旨

中村:ワイヤレスブロードバンドがなぜここまで注目されたのかということと、海外はどうなっているかということを話していきたい。

2001年9月にヤフーが登場したところから始まり、現在ADSLと無線LANが定番となりつつある。97年電気通信事業法改正でアンバンドル化され、2001年にヤフーが3000円でADSLを始めてからたった4年で2000万件というところまできた。インフラが先行することによって新しい技術が出てきた。こういった関係性の中でブロードバンドが日本の産業に大きな効果をもたらすようになった。

一方、ワイヤレスは11bから始まり、1990年に「11委員会」が発足したが、この10年間は需要が無かったということになる。いわゆるFMC(Fixed Mobile Convergence)で花開くという感じで考えていいのではないか。

海外で言うと、ニューヨークでインターネットができるホテルを選ぶ必要はなく、窓から勝手に電波が入ってくるような状態。マンハッタン中がホットスポット。ヨーロッパもかなり進んでおり、フランス7000箇所、ドイツ7000箇所(のホットスポット)というように欧米では日本以上に進んでいるのが現状。

一方、マクロ動向を見ると高齢化、ユビキタスな生活環境というように、データで見てみるとサービスをいくら頑張っても財の落ち込みをカバーできていない状態。もしくは物が足りていて投資活動の将来がないという状態。日本経済自体がなかなかうまくいっていないという現状がある。

電子商取引を日米で見てみると、B to Bは比率的に伸びてきているが、B to Cはもうちょっという感じ。広告を見てみると日本の広告市場は5.8兆円ほどといわれるが、GDPの比率でいうと日本は(米国2.1%、英国1.3%に対して)1.1%に過ぎない。まだまだ伸びる余地は残っている。

ワイヤレスで何が変わったかというと、家庭やオフィスでのインターネット環境をそのまま外にも持ち出していくということが可能となる。車の中の無線LANというように、移動中の通信がなかなか実現されていないが、家庭の中や、ビジネスのシーンからワイヤレスブロードバンドが浸透しつつある。

ブロードバンドの普及によってワイヤレスが広まりワイヤレスが使えるとインターネットの基盤の上で様々なことが可能となってくる。その中で第一にIP技術を無線環境で生かすための取り組みが必要である。

モバイルインターネットの利用状況からいって高速移動中のブロードバンド利用のニーズはかなり限定的。このためだけに高速移動プロファイルのための技術開発投資、電波資源が投入されるのは如何なものだろうか。

移動しながらの通信は、あれば便利なのだろうけど実際に絶えず動いている中での利用シーンというのは少ない。双方向ではなくダウンロードだけならばデジタル放送の活用が有効ではないかと考える。

防災無線がデジタル化されているが、とある政令指定都市ではアナログでは(電波は)受けることが出来ていたが、デジタルになった途端に受けることが出来なくなった、というような事態が起きている。日本特有の周波数の関係もある。周波数特性を踏まえた地上系無線の政策が必要。

海外では、フランスで175事業者がWiMAX免許に応札、ドイツのハイデルベルグで初の商用WiMAXが8月にサービス開始というように動きがある。中国では強力な中国共産党人脈で行われる取り組みは驚異的であり、日本やアメリカの市場を無視した自分たちの仕様を固めて、安くて良いものを追っている。

もともとFMC的な状態である欧州キャリヤ、ケーブルを軸としてFMCになった米国、という中で日本だけ取り残されているのが現状だ。

竹内:11月9日の電波管理審議会で認定が降りてモバイルブロードバンド事業を進めていくことになった。今日はその点を中心に話していきたい。

IPモバイルは専業ベンチャーという表現が先ほどあったが、3年ほど前に設立、TD-CDMAを事業化しようということで立ち上がった。IPモバイルは親会社であるマルチメディア総合研究所がTD-CDMA技術を進めていく上で移動体通信の分野をやるために作られた。

マルチメディア総合研究所は日本・韓国でTD-CDMAが立ち上がれば、という考えで活動をしてきている。IPモバイルは割り当てを受けて事業化、パフォーマンスを実証するのが役割という感じ。

TD-CDMAに関して様々な誤解があったが、実験局を設置して総務省に対して技術がある事を証明し、周波数も空いていたためビジネスをしたいという旨を伝え、割り当てを受けるに至った。

基地局計画については認定をもらい、2006年10月をサービス開始の目処とし準備を進めている。具体的には無線のビジネスなのでどこに基地局を置くか、機材の調達、実際の工事、といったプロセスになる。基本的にはデータ通信をメインに考えているため、既存の携帯電話事業者に比べ限定的な展開になると。

TD-CDMAの技術は第三世代の移動通信技術のうちの一つであり、CDMAと呼ばれる技術の中の一つ。使われている周波数帯の幅が中国で使われているTDS-CDMAと比べて3倍あり、理論的にはスルートップも3倍とブロードバンドに向いている。TDS-CDMAは今までのW-CDMAへの技術として認知され展開されているように思う。データ通信サービスを行っていくうえでTD-CDMAを選択した。

TD-CDMAのシステムに関しては基地局の先(バックボーン側)はIPネットワークで構成している。ノードそのものも小さく出来ており設置コスト・メンテナンスコストを含めて非常に安く実現できている。また非常に多くの同時接続者数を実現している。電話のマーケットが飽和しつつある中で人間が持つデバイスではないものを提供していく、という考えを持っている。

音声サービスをやろうする場合は品質保証等を含めて帯域を確保しなければならないが、データ通信サービスであるから柔軟にリソースを割り当てることが出来る。データ通信の定額制という意味で柔軟に対応していきたい。

IMT2000の規格にもなっているが、移動中の環境をどれだけサポートするかは重要な問題であると言える。いつでもどこでも繋がるということが、基幹インフラとして果たさなければならない条件だと考えている。移動時間が短くても、いつでも繋がっているというシステムが重要であると考えている。

MBMSと呼んでいるが、マルチメディアブロードキャスト-マルチキャストサービスを実現することが可能。TD-CDMAの特徴である基地局と基地局の境目でのスループットが非常に高い事を生かした技術。

移動体通信そのものに関しては圧倒的に携帯電話の市場規模は巨大市場であり、魅力的である。しかし、現在3キャリヤがサービスを行っている中で音声データ通信に参入しなければならないか、というとそれは違う。現状の9000万の端末数が倍になるのであれば、それはそれでいいが、ユーザーの立場から考えてみると、2台目の端末を持つことや今の倍の料金を払うことは果たして許容できるだろか。新規事業者としての役割はなんだと考えたときにデータ通信をきちんと立ち上げることだろうと。

データ通信と一言に言っても使い方は様々だ。安くて早いインフラをTD-CDMAの技術を生かして提供することが出来る。カード型、組み込み型以外にもデータ通信のオープンな仕組みを作っていくことが我々の役目だと考えている。

既存の事業者はインフラからコンテンツ、アプリケーションまでユーザーの使われ方を想定して、そこで付加価値、競争戦略、差別化のポイントなどを入れ込んだ形でやっていくのが今までの携帯電話のビジネスだった。

我々が新規事業者として入っていく時に既存事業者のようなモデルは取るべきではないと考えている。新規事業者が垂直統合型のモデルでトータルなサービスをユーザーに提供するのは非常に難しい。TD-CDMAという技術をしっかりとやっていくことで競争力を持つことがポイントだと考えている。

音声通話の方に関してはあまり積極的に考えていない。パーソナルメディアゲートウェア的なものが載ってくればとよいと考えている。我々は様々なデバイスを繋いでいき接続性を提供することで、いかに使ってもらうようにするかがポイントだと思っている。

■質疑

原:ウィルコムと同じサービスのように聞こえるが、なぜ一緒にならないのか?
竹内:技術が国際的な技術である点、拡張性が高い点、これからのブロードバンド化に対応できるポテンシャルが多分にあるという点でこの技術でやるべきだと考えている。
原:ビジネスが始まったら食い合いになるのでは?
竹内:市場はもっとあると考えているし、棲み分けが出来ると考えている。
原:ピッチと同じ運命を辿るのではないか?
竹内:データ通信だけで考えた場合と音声を載せた場合では大きく異なる。(音声サービスの)ニーズがあることは認識している。
山田:国際的な整合性を考えてTD-CDMAを選んだと言っていたが、実際に他の地域でTD-CDMAは事業として営まれているのか?
竹内:数で言うと23カ国ほどがやっている。大きいところで言うとニュージーランドのウッシというオペレーターが百数十局の置局をして1万5千から2万人のユーザーを集めている。TD-CDMAが本格的に出ているというのはまだ無い。先月、チェコでTモバイルが全国展開を始めると発表するなど徐々に立ち上がりつつある。周波数帯で言えば空いているところを貰って事業を始めるというのはIPモバイルが始めて。
住友電工 荒木:IMT2000は電話システムなので音声通話が入っていないと免許が下りないという話を聞いたが、免許要件に音声通話は入っていたか?
竹内:今回の要件に関してはデータ通信、移動通信という切りわけであって音声は義務ではない、という承諾を貰っている。
山田:世界的なユーザー数から考えてGSMのEDGEを選ぶということは無かったのか?
竹内:拡張性、今後のブロードバンドの展開、事業をやっていかなければならないという観点で考えたときにIMT2000でいこう、という流れとなった。
真野:技術選択というよりは手に入る技術の中での選択という印象を受けるが?
竹内:要はデータ通信をやりたかったので、様々な技術を見た中で、周波数を取れるのはどれかというところでTD-CDMAという事になった。
荒木:SIG1、SIG2を傍聴していたが、話がコントラバーシャルになってくると引き戻されるといった場面が何度かあったが。
中村:SIG1、SIG2の両方に出ているキャリヤ側の人間からすると、そこには触れるな、という事になってきてしまう。
真野:今回の(ワイヤレスブロードバンド研究会の)報告書で面白いのは、SIG1も、SIG2も自分たちだけではサービスが出来ないから補完的にならざるを得ないといっている。

真野:TD-CDMAに根ざしたデータ通信だといっているが、ドコモも10年前から人間に持たせる端末には限界があるから、動物や機械へ、と言っている。他の事業者が様々な可能性を打ち出してく中で、IPモバイルは技術にスティックしてデータ通信だけとしてしまうのか?
竹内:順序としてモバイルを立ち上げ、その次の段階として出来上がったネットワークをいかに生かしていくか。フェーズごとに考えていきたいと考えている。
真野:どこかに話を持ちかけに行くような場合のときに、相手はどういった相手を考えているのか?
竹内:まず考えられるのがISP。モバイルの分野を提供することが出来る。自分たちが主体として考えるのは次のフェーズだと思っている。
池田:研究会といえば、アメリカなら民間からの大胆な発言を受ける場だ。日本の報告書は官僚の作文としか読めない。
原:それが日本人だ。