知的財産 電子書籍の動向と知財本部での議論 中村伊知哉慶應義塾大学教授

特定非営利活動法人情報通信政策フォーラム(ICPF)主催
IEEE TMC Japan Chapter協賛

ICPFでは平成22年度秋季に「電子書籍をめぐる動向」と題するセミナーシリーズを開催してきました。このシリーズを総括し、電子書籍についていっそう議論を深めるため、3月29日にシンポジウムを予定しておりましたが、東日本大震災の影響で中止を余儀なくされました。そこで、シンポジウムに登壇を予定していた三氏に連続して講演いただく、春季セミナーを引き続き開催することにしました。その第1回は、中村伊知哉慶應義塾大学教授にお願いしました。中村氏は知的財産戦略本部コンテンツ強化専門調査会の会長として、市場整備の加速、知的資産のアーカイブ化と活用など、電子書籍に関係する政府施策のあり方に関する議論をリードされています。議論の結果は、知的財産推進計画に反映される予定です。
政府の施策について最新の動向をうかがうチャンスです。皆さま、ふるってご参加ください。

概要:

日時:5月24日午後6時半から8時半
場所:東洋大学白山キャンパス6号館6304教室
講師:中村伊知哉氏(慶應義塾大学教授・知的財産戦略本部コンテンツ強化専門調査会長)
題目:「電子書籍、デジタル教科書 + 政策」
モデレータ:山田 肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
参加費:2000円(ただしICPF会員は無料です)

講演要旨

中村氏の講演要旨は次の通りである。

転機にある情報通信産業

デバイスでみれば、スマートフォンなど、テレビ・パソコン・ケータイに次ぐ第四のデバイスの登場。ネットワークでは、テレビの地デジ化、高速ブロードバンドの普及。ネットワークのデジタル化は、15年ほど前からの動きだが、ひとまずここでケリがつく。この様な、地デジ後、ブロードバンド普及後の、ネットワーク・クラウドをどうするのか、という状況。
サービスでは、ソーシャル化の流れが起きている。ここ数年、コンテンツ、コンテンツと議論されてきたが、ソーシャルメディアに移っていっているだろう、というのが実感。「メディア・ソフト」と呼ばれていたものが、「情報の中身」を指す言葉として、93年から94年にかけてコンテンツと呼ばれる様になり、ここにきて、コンテンツからソーシャルへ、となってきている。
デバイスで見ても、iPhone、スマートフォンや、Kindleの様な電子書籍専用リーダーが登場した。また、タブレット機についても複数出てきた。15年程前に流行った「マルチメディア」の新しい形が今。

電子書籍の黒船

華やかな話の一方で、幾つか議論も出てきている。例えばGoogle Book。2008年10月に米国で補償金を支払う事で和解したが、一時、この話に日本も巻き込まれるのでは無いかと議論になった事は記憶に新しい。「プラットフォーム」でみても、AppleのiTunesやAmazonのKindleなどが台頭してきている。もはやKindleは紙の書籍の売り上げを超え、電子書籍で76%シェアを持ち、一馬身抜けている状況。そこにAppleがiPadで反撃をかけている。デバイスによる競争よりも、プラットフォーム間の競争が激化している。
この、米国の動きを見て、日本では黒船がやってくると騒ぎになった。ただ、音楽や映像市場では、その前から黒船が来ていたわけで、文字は遅れていた、やっと文字の話になった、ということだろう。
日本はガラパゴスと言われるが、実は独自に、高度に発達した環境でもある。シャープはうまくその言葉をつかってやっている印象がある。
日本でも出版社が31社集まって「日本電子書籍出版協会」を設立したりと、様々な動きが出てきた。しかし、この10年で、日本の出版業界を見てみると、97年の4612社から2010年3979社に減り、売り上げも6千億以上減っている。コンテンツ業界全体でも規模が縮小していて、それまで王道のビジネスと言われていたマスメディアが大きな波にさらわれて、構造変化を余儀なくされている。

電子書籍に向かう業界の動き

デジタルとアナログに分けると、今年、デジタルの方が大きくなる。流通の手段として「物」を伴ったパッケージメディアを利用していた時代から、ネットやケータイでの利用が、今年そろそろ逆転する。パッケージからネットへ、大きく変化する。後で話をするが、放送の電波を使って、電子書籍の配信をやろうという動きもある。勿論、新聞社も同様にネット展開へと乗りだしていて、日経・朝日もネットサービスを開始。その他、朝日、凸版、SONY、KDDIで組む、docomoと大日本印刷で組む、SoftBankもと、印刷会社や携帯キャリアもプラットフォームへと進出している。
大事な観点は、作家の動きだろう。京極夏彦は『死ねば良いのに』を電子書籍で先行発売し、村上龍は電子書籍制作販売会社を作って自前でやるといっている。出版社と組むという作家の戦略も出てきた。
先ほど、Google Bookの話をしたが、書籍のデジタル化については国内でも議論されており、国会図書館の動きもその一つ。国会図書館の長尾館長は、電子化した書籍をネットで安く読めるという構想を打ち立てた。これまで、既に90万点の資料のデジタル化を済ませていて、書物を出来るだけ多くの人へ、知の共有化を行うと言うことで提案している。しかし、出版社・著者の権利を損ねるのでは無いか、という懸念もあり、このバランスの取り方についての議論を今も続けている。
一方で、地方での図書館の動き。武雄市市長が「My図書館構想」と言うことでiPad向けサービスをはじめた。武雄市の中で、1000名を対象に、一度の利用は5冊までということで実証実験をやっている。僕が、名誉館長をやるということで、当面は武雄市自ら著作権を持っている書籍や権利の切れた書籍でスタート。だんだん増やしていく予定だが、そこは慎重にやっている。モデルとしてうまくいけば、全国の図書館、国会図書館と連携してはいけないかと考えている。これは地方発のほんの一つの小さな例だが、こうした動き自体が出てきたことは重要。

ビジネスとしての電子書籍

ビジネスとしてどう見るか。通信で流通しているコンテンツ、トータルで1兆5千億円ある。だが映像や音楽に比較して文字は遅れた。パソコンやケータイ、ネットで買ったことあるもので多いのは音楽。その次が映像系。書籍を買ったことあるのは3.3%、ケータイでも2.3%に過ぎない。
文字メディアは通信ビジネスに出来ていなかった。ではなぜここにきて電子書籍が注目されたかというと、やはりデバイスだろう。これだったら本をデジタルで実現できるではないか、というところまで来た。
だが、実は日本の電子書籍市場自体は670億円ある。実は日本の市場規模は大きい。この割合はケータイでマンガを購入するものが中心だった。そしてその多くが「やおい」系。いわゆる、「ボーイズラブ」。男の子同士の恋物語を描いたマンガを女子が読む、といった市場だった。つまり、需要はあっても、本屋でレジにもっていく部分が障壁となって顕在化していなかったという事。実はこうした事例があって、それをどの様に、市場として掘り起こすかが、日本のコンテンツ市場を考えていく上でのポイントとなる。
もう一つ、大きな市場が電子辞書市場。413億円の売り上げ、250万台の売り上げ台数。これだけの規模の電子辞書端末市場は、世界的に見ても他に無い。母親に新しいケータイを買ってよ、と言って駄目でも、電子辞書ならOkという場合も。財布の紐の開け閉め。だから、僕なんかはコレ向けにゲームを売ればいいだろうと思う。
そして「教科書」。僕が事務局長をやっている、「デジタル教科書教材協議会」で色々と取り組んでいる。デジタル教科書の市場規模は4兆円あるのでは無いかと思う。

情報通信法の制定

コンテンツ「制作」現場を含め、新しいビジネス、新しいサービスを活性化できないかと言うことで、5年前に取り組んだことが、「通信と放送の融合」を後押しする法律としての「情報通信法」。通信、放送で縦割となって複雑だった法律をレイヤー別に見直す、というもので、昨年、ねじれ国会の中で成立した。4年間調整して説得に説得を重ねてやっと成立。5年前の空気と、成立の時では業界の法律に対する空気感も大きく変わっていた。当時は、放送業界から「通信・放送融合」なんて言うなと怒られたが、実はこういう規制緩和の話は、放送業者にとってメリットが大きいという理解が進んだ結果だろう。
当時から我々が何をやりたかったかというと、コンテンツ・サービスを何とかしたいという事では無く、電波の使い方を何とかしたい、ということだった。
電波を使って夜中も放送を続ける必要は無い。夜中、電波を別の目的に利用する、例えばモバイルビジネスをやろうと、通信ビジネスをやろうとするでも良い筈。だがこれを総務省に持って行くと、夜中の電波が余っているのなら電波を返せ、となり、結局、放送局はショッピングチャンネルを流し続ける事で夜中の電波を埋めると言う事になる。しかし、その電波でもっと色々とビジネスを出来る様にしたら良いじゃ無いか、という話が一つ。
そして、放送事業者が様々な媒体向けにコンテンツビジネスを展開しようとなったときに、規制がそれぞれ異なるということ、書類もそれぞれ必要になってやらない、ここもなんとかしたいという話。色々なネットワークが出てきて、デバイスも出てきてる中、それを生かすことが出来ていなかったが、今回通った法律によって、出来る様になる。

ユビキタス特区について

ただ、アメリカやヨーロッパなど世界が動いている中で、日本は遅れていた。法律なんて政権が変わったらどうなるか判らないという事で、法律を変えなくても特区でやらせてくださいよと政府に頼んで、全部で67カ所が特区に指定された。我々はユビキタス特区を作って、そこで電波の割り当てを受けて、ビジネスモデルを開発すると言うことをやっていた。
その中の実験の一つが、AMIO(アミオ)、放送の電波にインターネットプロトコルを乗せて、新聞や雑誌の紙面をそのまま伝送するというもの。元々技術的には可能な話で、それがビジネスモデルとして成り立つかと言うことで、特区のみで実証実験を行った。どんな端末でも利用出来る。これも、電子出版、電子新聞の一種。電子書籍の配信は、放送の電波を使っても、通信と同じ事が可能。この様に、様々なマルチデバイスに対して、マルチなネットワークを使ってある特定のコンテンツを流すということが、日本でも設計できる様になってきた。

若者の動向

ビジネスやサービスが急速に発展している中、さらに早く動いているのがユーザー。昨今の若い人達について「テレビ離れ」と言われているが、息子のテレビ利用動向を見ていても、あまり昔と変わっていない様に感じる。しかし、見ている中身は変わっている。何を見ているかというと、HDDの録画物をCM飛ばしてみているか、YouTubeを通じて日本のアニメを見ていたりする。
テレビの前で自分のパソコン開いて検索したり、mixiをしたり、その一方でケータイ使ってメールで友人となにやらやりとりしている。三つのスクリーンを使いこなしている。みんなそうしているよ、と。
テレビ屋さんはテレビ向けにコンテンツを創って流して、ネット向けのコンテンツ屋さんはネット・パソコン向けにコンテンツを創って流して、ケータイ向けのコンテンツ屋さんはケータイ向けに、とやっていてもだめ。一人が3スクリーンを3つの異なるネットワークを通じて利用する中で、3つのスクリーンと3つのネットワークにコンテンツをどの様にプロデュースし、ユーザーを捉まえて、どうお金を動かしていくのか、という話。だから、縦割りでは捕まえきれなくなってきている。そこにさらにmixiやFaceBookなどソーシャルな動きが出てきて、どんどん動いている。
その動きを支えているユーザーが、女子高生。日本の特徴でもある。どれだけケータイを使っているかと言ったら、中学生は46.8%、高校で96.0%。昔から電話だけで無くネットを利用しているし、音楽ダウンロード、ブログ、プロフの利用と、世界一高度に携帯文化を築いている。
グリー、モバゲー、mixiまでは追いつけても、「プロフ」やって「リアル」やって、となるとどんどん実態が見えなくなってくる。「ケータイ小説」。これも立派な電子書籍。2007年の文芸書のトップ3に入ったのがケータイ小説。こうした文化を築いているのが日本のコンテンツ市場。しかも、このブームは既に去っている。デジタルの文化の動きは非常に速い。去年11月にフランクフルトに行ったが、ケータイ小説で博士号をとろうと論文をまとめようとしている人に話を聞いて、もう日本でそのブームは終わっていると言ったら、驚いていた。
3年前、Technoratiの調査では、ブログの総量で日本のブログが37%を占め、1位となった。ネット上で最も使われている言語が日本語と言うことに。その中身はというと、なにかしら、眠いとかウザイとか、一日の出来事をずっとかいている。それが世界中の37%を占めている。これはつまり、日本は世界から見て特殊なくらい、たくさんの人がアップロード、発信をしている、ということ。日本は世界の中でモデルが無い。市場が特殊だということ。
そこで起こった事件が京都大学の入試事件。この2月の話。母校なので気にしてみていたが、ケータイでカンニングする2004年、韓国で起きたので起きるに決まると思っていたが、彼がやったことは、ケータイを使って入試問題の回答をYahoo!知恵袋で聞いたというもの。文科省で学校教育情報化に関する委員会が報告書をまとめたが、そこに一番大事なのは「教えあい、学びあい」と書いている。やっているじゃん、と思う。未来のモデルで、問われているのは入試そのものだと思う。
何れ、アメリカの大学等でも、PC持ち込みOKとして入試をやるだろう。ネットを使う事を当然として、問題を考えてご覧と問いかける。その時に、どういった人材を選ぶのか、これは大変な問題。デジタル化が進み、旧態依然とした社会との間に、問題がどんどんでてくるだろう。

デジタル教科書について

すべての小中学生がデジタルで学べる環境を作ろうと言うことで去年の7月に協議会を立ち上げた。日本におけるターゲットイヤーは2020年、やっと去年閣議決定した。しかし遅い。韓国2013年、シンガポールは2012年。中々、国全体として、教育のデジタル化を進めましょうという方向には行かない。「おまえ達は紙の教科書をなくすつもりか」と反発がくる。協議会としては紙をなくすつもりは無い、紙とデジタル共存。我々はデジタルを使うのは3割くらいかなと思うが、孫さんは紙を全部なくすと言ったりして、内部でも意見は異なり、議論している。
もう一つの問題は教科書をどうつくるか。紙の検定教科書をデジタルに置き換えるのは結構先の話。電子書籍の多くも、紙の本をデジタルに載せるのか、という話だが、それはあまり、たいした話では無く、デジタルにふさわしいコンテンツをどう開発するか、という方が重要。
そこで、「教科書」では無い、「教材」として捉える。教材としてのマルチメディアコンテンツ、ゲームはどんどん開発されている。任天堂の「脳トレ」シリーズは世界的にも高い売り上げを見せていて、合計で1000万本くらい売れている。教育向けのゲームがたくさんあることも日本の特長。日本ならではの教材コンテンツ、ケータイ向け。サミーネットワークスが展開している無料受験ポータル。こうした動きが日本から、出てきている。日本で試しているポータルを世界にどう持って行くか。
或いは新聞社が教育業界に入ろうという動き。毎日新聞の例、内田洋行のエデュモールに、毎日新聞のデジタル版を提供。新聞社と言ってもコンテンツクリエイター。様々な、戦前からの膨大な写真データベースがあって、それをもとに教材の設計をしている。或いはNHKのデジタル教材。学校教育番組27番組、3000くらいのクリップが学校教育で利用できる。皆さんも授業でNHKの番組を見たこともあるだろう。
だから、教科書と言っても、紙の教科書を作っている方々と、これから作ろうと、参入しようとしている、出版社、ゲーム会社、新聞社、放送局もいる。コンテンツクリエイターとして、教育分野の教材をどの様に作っていくかという話。
ただし、繰り返しになるが日本は遅れている面がある。ウルグアイが、2009年に、すべての小学生にインターネット端末を持たせた。このパソコンはMITがプロジェクトとして開発した100ドルパソコンの原型。100ドルパソコン構想は世界中の途上国にインターネットに繋がるパソコンを広めようと言うことで35カ国、130万人の子供達が持っている。来年、プラスチックカメラ付きのタブレット型も予定されている。最初の設計図は、2001年7月に、西和彦と僕と二人でMITにプレゼンして、米国政府ものって、世界中を相手にやることになった。同じように日本に持って帰ってきたところ、なにやってんだ、とけんもほろろにおいかえされた。今の私の活動はリベンジでもある。

デジタル教科書への抵抗

日本でも火をつけようと色々やっているのだが、それはどうか、という声も多い。田原総一朗『デジタル教育は日本を滅ぼす』という本、教育を何とかしようという点では一致しているが、中身を読むと、一つの答えを追い求めて画一化で先生がいらなくなる、という話。最初は言っている意味が判らなかったが、田原さんが言っているデジタルとか情報化は、電卓のこと。コンテンツはドリルだと。電卓持ち込んでドリルやってれば画一教育に繋がるという主張。
これは反論しなくては、と慌てて本を書いて、対談した。田原さんTwitterやっているでしょ、僕らがやっているのはああいうこと。答えが一つ出ない世界で自分で問いを作って、答えを教え合って、学び合う場、ということを説明して、理解をしてくれた。今は協議会のアドバイザーをやって旗振り役をやってくれている。
政府の目標は2020年で、僕らはそれでは遅すぎるので5年前倒ししてください、2015年、小中学生に1000万台の情報端末を配りましょう、無線LAN整備率100%にしてください、すべての教科でデジタル教科書・教材をそろえてくださいと主張。

三省懇談会について

電子書籍のプラットフォームの動きが、黒船だと、日本としてどう立ち向かうんだという話で、Googleやアップルやアマゾン等、「上喜撰 たった四杯で夜も眠れず」の状態で、総務・文科・経産の御三家が会談をしていたのが去年の状況だろう。
それが三省懇談会。本来仲の悪い役所が組んだ結論が、「知の拡大・再生産」や、「国民の知のアクセスの保証を進める」、というもの。そのためには、権利の集中管理、出版社への権利の付与、図書館との関係を整理したり実験しましょう、或いは技術的にファイルフォーマットの共通化をしていったり、日本の出版物の海外展開について話し合われた。
それをうけて、改めて各省で会議が行われている。文科省、出版社に対する権利付与、国立国会図書館のアーカイブ活用、民間とどこで線を引くのかといった議論。ただしそう簡単に結論は出ないだろう。総務省、経産省は様々な実験をしようと言うことで、財務省に予算を取ってもらい、中間ファイルフォーマット策定の実験をやったり、経産省が中小企業対策としての実験をやったりとやっている。しかし足下ふらふらしていて直ぐ仕分けされていたりして、脆弱な政策領域となっている。

知財本部での議論

私が座長を務めている知財本部の委員会でも議論が進んでいる。確か来週、総理のところに行って、今年の知財計画を確定する予定でいる。コンテンツ専門調査会は、自民党政権の時からやっていたが、民主党政権になってから座長を頼まれ、それまでのコンテンツ政策をガラッと変えようと言うことになった。従来の、アナログもデジタルもパッケージもどれもこれも総花的に補助金持って行って進行しましょうという話から、それじゃない、それでは強くならないと言うことで、デジタルの分野を集中させ、海外にどうやって出て行くか、国がお金を使うなら基盤のところ、教育など、そこに集中すべきと言うことで動きが出てきた。
今年の目的で据えられそうなのが、一つ目がデジタル化・ネットワーク化。コンテンツ電子配信促進、デジタルネットワーク基盤整備、これが電子書籍に関連するところ。二つ目がクールジャパン推進、海外出て行きましょう、かつてSony、任天堂がやった様に、出て行こうと。三つ目が教育。
コンテンツのところ。コンテンツの電子配信促進。電子書籍市場の加速化ということで電子出版の契約促進支援、技術的な中間ファイルフォーマット策定、或いは最終フォーマットの日本語対応が並んでいる。また知的財産・放送番組のアーカイブ化。
政策的に大事なのは、デジタルネットワークの基盤整備だろうと考える。クラウド型サービスの環境整備、プラットフォームの競争環境整備と二つあげられている。前者、例えば「まねきTV」判決、あれは、自分のコンテンツをサーバーに挙げて取り出すことも公衆送信に当たっちゃうのじゃ無いか、ということで日本の中ではもうクラウド型サービスが展開できないのでは無いか、おかしいのではないかという話。司法の話だが、行政府として、立法として対応する必要があるのでは無いかと思って、危険かなとも思ったが書き込んだ。プラットフォームの競争環境整備、これははじめて、知財計画の中に公取が出てきた。Apple等が高いシェアをとって独禁法違反を行うとしたら、そこはしっかりウォッチしますよ、公取として、関心を寄せてみている、ということを珍しいが書いた。これらが政策としての話。

歴史を振り返れば

去年ドイツのマインツに行ってきた。グーテンベルクの活版印刷は1455年。去年観てきたので、555年前だった。つまり555年間、アナログの、文字の文化を築いてきた。3世紀の間に宗教革命、産業革命、市民革命、がおきた。しかし、そうなることをグーテンベルクは空想していたかというとそうでは無いだろう。ここから555年の文化を創っていく。今は目の前のビジネスモデルの話、権利の話に忙殺されて見えていないが、これから1世紀2世紀3世紀たってどうするのか、ということでもあるだろう。
ついでに、地震のこと。被災地に行ってきた。
63万冊の教科書が流された。デジタル教科書色々議論があるが、だったら、クラウドにしておけば問題なかったと思う。復興策の中でデジタル化をどう捉えるか重要。
町によっては、疲弊してきた町、そこを相当な金をかけて復旧させても、元の活気は戻らない。阪神淡路の時と状況が違う。日本全体の復興策、ある程度短期的に出来るだろうが、本当に現地の復旧をどうするのか。
阪神淡路の時は固定電話が駄目で携帯電話は使えた。今回は携帯は駄目だった。ネットは使えた、ソーシャルも役立った。これからもそうかというとわからない。皆がネットをつかったらIP大丈夫かは判らない。次のネットワーク設計を根本的にやらなくてはならない頃だろう。元々インターネットプロトコルはアメリカが核戦争に備えて、途切れないネットワークを構築しようとした。ソ連との冷戦時代の超巨額なR&D。日本は地震という敵に向かって次何を開発するのか、研究開発の面で考えなくてはならない。
通信放送融合のこと。あれだけ無理と言われていた、テレビの配信をネットでやると言うことが、出来た。USTREAMの日本法人の社長にきいたが、あれから世界中のUSTREAMのユーザーが倍増した。
ラジオ番組のRadiko、区域制限を外した。だんだん落ち着いて番組内容が元に戻るに従って、配信を止めて元に戻したが、きっかけとして、やろうと思えば出来る、ということが判った。これが契機になって次を動かせるのでは無いかと思う。
今回の震災後で一番心に残ったのが、銀座のお年寄りと話したとき。関東大震災。1923年、第二次世界大戦、終戦時1945年、その20年くらいの間で家が2回焼けたよ、でも直ぐ建てたよという話。それが日本人の生き様かもしれない。
電子書籍の話と合わせて、町中のディスプレイを使って、これから、復興に向けて、どのような政策を作っていくのか、ここ数ヶ月の最重要課題だと考えている。基盤整備、コンテンツを生産・発信してく、一番大事なのはICTの利用促進。
全国的にICTを利用していくということ。電子書籍もその一巻だが、あらゆる分野での情報をクラウドの、或いはマルチデバイスの上で利用される様になり、情報格差も無くなり情報リテラシー教育を強化していくことが、長期的に見たときに、日本のIT分野の最大の復興策になっていくのではないかと考えている。

文責:山田肇 山口翔