セミナー「AIとヒトのインタフェース:自動走行車を事例に」 平岡敏洋東京大学特任教授

主催:情報通信政策フォーラム(ICPF)
日時:1月21日火曜日18時30分から20時30分
場所:ワイム貸会議室四谷三丁目
東京メトロ四谷三丁目駅前、スーパー丸正6階
講師:平岡敏洋(東京大学生産技術研究所 特任教授)
司会:山田 肇(ICPF) 

平岡氏の講演資料はこちらにあります

冒頭、平岡氏は次のように講演した。

  • 「運転する時間を他のことに使える」「飲んでも帰れる」など、世間一般は自動運転に期待している。一方、業界リーダは、「完全な機能」がすぐに実現するという人と、甘く考えてはいけないと主張する人に分かれている。
  • 自動運転にはレベルがある。システムがステアリング操作と加減速のどちらかをサポートするのがレベル1、いずれもサポートするのがレベル2、限定された場所でシステムが操作し、正常に作動しているときにはドライバーに責任がないが緊急時にはドライバーに操作を委ねるのがレベル3、特定の場所でシステムが全てを操作するのがレベル4、場所の限定なくシステムが全てを操作するのがレベル5である。
  • 官民ITS構想・ロードマップによると、物流・移動サービスについては近々にレベル4が達成されるが、オーナーカーについては一般道ではレベル2、高速道路などの限定的な条件でのみレベル3が使える時代が長く続くと予測されている。
  • 自動運転には多くの課題があるが、なかでも自動運転に対するユーザの正しい理解と、自動走行車とヒトとの円滑なコミュニケーションを実現するHMI(ヒューマン・マシン・インタフェース)が重要である。
  • 現状、自動運転についてのPRの多くは正しい理解を作り出すものになっていない。たとえば、自動ブレーキは必ず衝突せずに止まるものではなく、あくまでも衝突被害を軽減するものだが、そのようには訴えていない。また、高速道路上の同一車線を自動走行できるからといっても、ドライバーは周辺状況の監視義務や万が一という場合には適切に操作を行う必要があるが、現状のCMではそうしたことを理解するのは困難である。
  • そもそも自動運転車は「絶対安全」を保証するものではない。システムが正常に作動する条件に限界があるためである。また、事故発生時の責任問題も解決していない。電車は線路を一次元運動するだけで、専用軌道を走り、侵入者をはねても責任は問われない。それにもかかわらず、現状では電車の自動運転は一部しか実現していないのに、どうして自動走行車が自由に走る時代が近いと思えるだろうか。
  • 特に問題なのが、手動モードと自動モードの切替えである。手動から自動への切替えには問題は少ないが、自動から手動に権限が移譲されるのには多数の問題がある。レベル2やレベル3ではいざというときにはヒトの介入を求めることになっているが、システムの性能が向上し、長い間、安全に走行できるようになると、ドライバーは監視を怠るようになることが容易に予想される。そのような適応行動はヒトの基本的な特性なのに、いざとなったら瞬時に対応できるとどうして考えられるのか。道路交通法ではレベル3での事故はドライバーの責任となっているが、本当に責任を問えるのか。
  • ドライバーが監視していることを車側がモニターするシステム(ドライバーモニタリングシステム)が開発されているが、自動走行車をドライバーが監視し、ドライバーを自動走行車が監視するという仕組みは現実的なのか。ヒトは便利な道具を手にするとサボるようになりがちという特性を考えれば、システムに対する過信を抑制するHMIを構築する必要がある。
  • ドライバーモニタリングシステムを用いて、ドライバーが覚醒していないときには停止するといったMinimal Risk Maneuver(リスクを最小化する操縦)が必要である。
  • レベル4以上になると、自動走行車の外にいるヒトとのコミュニケーションが問題になる。自動走行車の行動意図をどうやって伝えるかという点について、技術開発が必要である。自動走行車とヒトのインタラクションを調べた実験で、ヒトが自動走行車を見下す(思いやる必要はない)ように考えがちなことが分かってきた。これをどうやって防ぐか、ここにも技術開発課題がある。
  • 自動走行の目的は何か。安全性の向上か、過疎地での移動手段確保なのか、それともそれ以外なのか。システム設計を行う場合には、目的に応じて適切な自動走行技術を使うべきだ。自動走行を導入することが最善な解であるときにこそ導入すべきである。また、自動走行といっても、エリア限定・車速限定など制約があることもユーザに理解させる必要がある。
  • 自動走行の実現はまだまだ先だが、研究開発の過程で得られた知見は、運転支援システムに転用できるので、自動運転技術の研究開発は積極的に行うべき。手動運転を基本として、運転技能向上を促しつつ、ゼロにはできないヒューマンエラーが生じたときに、助けてくれるかもしれないといった運転支援システムとして実用化するのがよい。たとえば、アクセルから足を離すように促すため、ドライバーシートの下から足を押す仕組みと自動衝突回避システムの組合せなどが考えられる。

講演終了後、以下のような質疑があった。

自動運転実現への課題について
Q(質問):どんな目的で自動運転するか、まずそれを考えるべきという意見に賛同する。その上で、物流であれば普及は早いのではないか。
A(回答):飛行機のパイロットは機種ごとの訓練を受けるが、自動車の二種免許は車種を問わない。また、自動運転や運転支援のシステム利用に関する免許制度も現時点ではない。その点で飛行機よりも難しいが、プロのドライバーとして責任をもって運行してくれればレベル3も利用できるだろう。
Q:モノレールも自動運転なのに、なぜ鉄道では進まないのか。
A:わからない。鉄道会社に質問しても得心する回答はない。
Q:道路インフラとの協調で自動運転することもできるのではないか。
A:そのような検討もなされているが、設備のある道路でしか運転できないうえに、全国の至るところで使えるようにするためにはコストがかかってしまうという致命的な問題がある。
Q:インフラ設備とするとテロの危険も増すのではないか。
A:その通り。自動運転のセキュリティは大きな課題である。
Q:自動走行車のAIも自分で勉強して賢くなるのか。
A:メーカーの研究者に聞いたところ、その人は考えていないと回答した。勝手に学習して賢くなった自動走行車がどういう挙動をするかメーカーに予想できないからだ。市場投入後、実験や実データを用いた学習によってより賢い挙動をできるようになるパラメータを獲得した場合に、メーカーが適宜パラメータの更新を行うという運用が期待される。
Q:物流といっても家庭の前のラスト1マイルはどうするのか。
A:それはロボットなりドローンなりが配達することが考えられる。駅にロッカーを置くといったローテクな別の解決策もある。

ドライバーとの協調について
Q:人間は心理的側面から見る必要がある。運転を向上させようという意欲がわくような運転支援が必要ではないか。
A:その通り。制限速度を守るとコインがたまるゲームアプリを用いた社会実験を行ったが、相当数のドライバーが制限速度で走行するようになった。
Q:人相手なら目標値を作るのがよいのではないか。
A:私がかつて行ったエコドライブ支援システムに関する研究では、そのような仕組みがあった。運転履歴で保険料率を下げるような自動車保険も生まれている。
Q:下手な人は下手なりに楽しく運転できる必要があるのではないか。
A:その通り。「神ゲー」の作り方(ゲームニクス理論)に学んでゲーム的に利用してもらうのがよい。
Q:レベル3でMinimal Risk Maneuver(リスクを最小化する操縦)ができるのであれば、それはレベル4に相当するのではないか。
A:その通り。また、ドライバーがレベル3の車に依存してしまうと、レベル3のシステムからTake Over Request (TOR)があってもドライバーが操作をしない恐れが高まる。そのときには、MRMが作動して路肩に止まる自動走行車の列ができる可能性があるが、それでいいのだろうか。
Q:ブレーキとアクセルの位置のように、自動走行車とヒトのインタフェースは標準化されるのか。
A:インタフェースの統一は長い目で見れば必要だろうから、いずれ標準化に進む。しかし、今までのインタフェース、たとえば右足でブレーキとアクセルを踏むといった主流デザインを変えることは難しい。レベル4や5になって、ステアリングがなくなるような時代に革新的なインタフェースが広く利用されるのかもしれない。
Q:利用者であるドライバーを中心に据えるとインタフェースはどう変わるか。例示が欲しい。
A:極論で言えば、ステアリングに代わってジョイスティックになることもありえる。しかし、これは主流デザインとの戦いである。