セミナー「デジタルトランスフォーメーションを目指す政策」 平井卓也 前IT担当大臣

主催:情報通信政策フォーラム(ICPF)
日時:2月18日火曜日午後6時30分から8時
場所:都市センターホール 606会議室
住所:〒102-0093 千代田区平河町2丁目4−1
講師:平井卓也(前IT担当大臣、自由民主党衆議院議員)
司会:山田 肇(ICPF) 

冒頭、平井衆議院議員は次のように講演した。

  • デジタル化には今あるものを単にデジタル化するデジタル化(Digitization)と、ビジネスモデルを根本から変えてしまうデジタル化(Digitalization)がある。
  • 今までは二つが混在していたが、これからは本当に役立つ後者のデジタル化を進める必要がある。そうしなければ、幸せな日本にはならない。
  • 快進撃を続けるNetflixは2000年ごろには全米2位のレンタルビデオ屋に過ぎなかった。一方、わが国のメディア経営者はDigitalizationを甘く見ていた。それで世界に後れを取った。
  • 0やスマートシティが謳われているが、市民の期待は集まっていない。哲学がないからだ。1979年の施政方針演説で大平正芳首相は「緑と自然に包まれ、安らぎに満ち、郷土愛とみずみずしい人間関係が脈打つ地域生活圏が全国的に展開され、大都市、地方都市、農山漁村のそれぞれの地域の自主性と個性を生かしつつ、均衡のとれた多彩な国土を形成しなければならない」と『田園都市国家構想』を発表した。これを聞けばワクワクする。地域の自主性を重んずる新しい地域主義の下で、人間中心にそれぞれの文化圏を構築していくべきだ。
  • 令和の時代は、人口減少が続き、人口の半数が50歳以上で安定する時代である。人間中心の『田園都市国家』を、インターネットを前提として構築していく必要がある。この時代には成長よりも成熟が重要になるが、一方でディスラプティブなデジタルイノベーションを加速させ、成熟社会の真の豊かさを実現しなければならない。
  • デンマークは①デザイン指向で使いやすいサービス、②デジタル前提の法制度、③社会基盤としてのBase registry(公共機関が運用する信頼のおける情報源)の整備を掲げている。デジタル前提で、それにそぐわない法律案は「デジタル法制局」に撥ねつけられるようになっている。
  • 同様にデジタル前提の社会を形成するために立法活動に力を入れてきた。2000年のIT基本法(閣法)は、いわばデジタル社会の憲法であるが、セキュリティなどへの意識が欠如していた。そこで、2014年にサイバーセキュリティ基本法(議員立法)を制定した。2016年には、同じく議員立法で、官民データ活用推進基本法を制定した。2019年にはIT担当大臣としてデジタル手続き法(閣法)を制定した。今、「デジタル推進法」の議員立法を用意している。IT基本法はじめ8本の法律を改正するものだが、昨年の国会には提出できなかったので、今国会での提出を目指している。
  • 昨年、「デジタルガバメント実行計画」を閣議決定した。各府省の新規システム開発の際には、利用者のニーズから出発する、エンドツーエンドで考える、全ての関係者に気を配る、サービスはシンプルにするなど、実行計画が掲げる原則があるにもかかわらず、業務改革ができていない。
  • 今まで日本国民は戸籍と住民票で管理されてきた。しかし、本籍地登録の第一位は皇居、二位は大阪城、三位は甲子園球場と、現実とは無関係である。氏名の「ふりがな」は公証されないので、都合に合わせて何とでも変えられる。このように、わが国はIDのない国だった。これからはIDのある日本にしなければならない。マイナンバーは特定個人情報であり容易に利用できないので、マイナンバーカードの公的個人認証を広く社会で使いたい。9月から消費税対策でマイキーが利用されるが、一度、マイキー利用の基盤を作れば、児童手当や生活保護などの支給にも利用でき、行政コストは削減される。
  • 提供者視点による一般的な利用者像へのサービスを、個々人のQOLを向上させる個々の利用者視点のサービスに変える必要がある。若宮正子さんは「老いてこそデジタル」という書籍を上梓したが、利用者視点のサービスができれば、ますます「老いてこそデジタル」という社会になる。行政サービスへの評価軸も変えたい。
  • 社会全体でデジタルリテラシーの向上が大切である。デジタルを道具として使うためのサポートが必要なので、総務省施策として小学校区に一人ずつデジタル活用支援員を配置する方向だ。
  • なぜ、日本でデジタルプラットフォーマーが生まれてこなかったのだろうか。そんな気概がなかったからだ。ようやく、トヨタ、全日空などが動き出したので期待したい。一方で、ディスラプティブなイノベーションを生み出すスタートアップ企業を育てたいと、スタートアップエコシステム拠点形成事業を始めた。IT担当大臣だった時に、週に2回、3回とピッチ(役職を問わず、民間も含めて関係者が集まり自由に議論する仕組み)を開いてきた成果である。今後に期待したい。

講演後、次のような質疑があった。

デジタル法制について
Q(質問):マイキーよりもマイナンバーを利用するのが正しいのではないか。
A(回答):それはその通りだが、政治的な妥協でマイナンバーを特定個人情報とした以上、簡単には利用できない。もちろん、個人情報保護法の改正も視野に入れているし、将来はマイナンバーをオープンナンバーにすべきだ。
Q:既存ビジネスの抵抗を破る必要があるのではないか。
A:その通りである。シェリングエコノミーも進んでいない。何とか進めないといけないが、既存業者との軋轢もあり、最後は国民がどちらを支持するかによる、と考えている。国民の理解を醸成する努力が必要である。
Q:「デジタル推進法」は何を目指しているのか。
A:目指す社会の姿を基本理念として書き込む。その上で、関連8法を改正するのが、「デジタル推進法」である。
Q:どんな人々と協力してデジタル法制を整備していくつもりか。
A:心ある政治家、心ある官僚が協力してくれる。如何によい社会をつくるかを社会に伝えて、国民から支持をいただき立法していきたい。

アクセシビリティについて
Q:障害を持った人々もいるので、アクセシビリティを忘れないで欲しい。
A:「デジタル推進法」では、IT基本法を改正して、そこにアクセシビリティを盛り込む検討をしている。アクセシビリティの必要性は理解しており、有権者を集めた集会で話をするときには、会話の見える化アプリ「UDトーク」を使って発言を文字化して表示するようにしている。
Q:アクセシビリティの不備によって公的手続きができないのが問題ではないか。
A:その通り。改善の必要がある。豪雪地帯で冬に投票所に出向くのは無理だ。それよりも、マイナンバーカードが普及すれば、アクセシビリティにも配慮したネット投票への道が開け、高齢者も安心して投票できるようになる。「老いてこそデジタル」はそんな意味である。